プロ野球は興行(ショー)だが、同時に勝負の世界でもある。だから、そもそもチームの調子の浮き沈みによって観客動員にそれなりの変化があって当然であるし、本当の愛あるファンは「不甲斐ないチームだな」と感じるなら、応援ボイコットするぐらいで丁度いい。

本当に肝心なのは、勝っているのに応援されないことが起こらないようにすることだけである。2010年頃の落合中日はこの状態に陥ったため、フロントによって無理矢理弱体化され、現在まで続く暗黒時代の礎を築く結果となった。


なのに。少なくとも私が野球を知って35年間、このチームだけは毎年毎年、弱くても強くても変わらず「温かい声援」を送られ続けてしまう、なんとも可哀想なチームが一つだけ存在する。

もうお分かりだろう。阪神タイガースという球団がいつまでも勝ちきれない「ぬるま湯」にいるのは、私から見ればそのせいである。

しかもその声援の多くは阪神が行っている野球自体に対する期待と称賛に対してではなく、言ってみれば関西の関東に対する無意味で不要な対抗意識、さらに言えば[もとを辿れば我々こそ「畿内」であり他の地方は「蝦夷」なのだ]という、まことに視野の狭い身勝手な中華思想に源を発しているように思える。

よく言われることだが、大阪が東京を見ている時間に、東京はニューヨークやロサンゼルスなどを見ている。

また、東京では東京の各地域ごとの細かい対抗意識などはあるが、別にその他の地方に対する関心度には、あまり差がない。しかも、それは別に東京だけが偉大だと思っているからでもない。たまにそんな人がいたとするなら、かなりの確率でそれは東京崇拝・東京信仰の、東京に幻想を抱いている地方出身者である。

要するに、東京は大阪を馬鹿にはしないが、その代わり名古屋や仙台より上とも見なさない。客観的に大阪(関西)は都市として規模が大きいとは思うだろうが、それによる弊害を嫌というほど味わっている東京(関東)の人々は、それを理由に序列化などするはずもない。

いずれにしても、いわば「東西対抗」という図式に意味を感じているのは、残念ながら関西の方だけなのである。勿論そんな方だけではないだろうが、あの地元愛の無駄な強さは正直キツいと思ってしまう。


別の例を挙げるなら、鉄道ファンでも大阪ではJR西日本の新快速の走りに誇りを持っている人が多く、他方で速度が遅くシートも快適でない、その上馬鹿みたいに混雑するなどとして、関東の路線を馬鹿にする人が多い。そのくせ、がっつりJR東日本と競合している京浜急行電鉄が、競合区間で全然使われていないにも関わらず、関西で(と、それに影響されたアホな鉄オタ)の人気は結構高かったりする。

だが、そもそも関東の路線には混む理由も遅い理由もちゃんとある訳であり、同じ条件で路線を比較できないという意味では、申し訳ないがただの馬鹿である。

これでは、何においても大阪(関西)が東京(関東)に勝つのは難しい。強すぎる愛着の為に本質が見えなくなってしまうのなら、それはもはや「良い愛情」とは言えなくなってしまう。


こういった理由から、心ある阪神タイガースファンの皆さまは、現在のような状況では阪神への関心を一時的に薄めて、球団の売上を下げる方向に動くべきなのである。

これは、まともな候補者がいないと感じる選挙に関しては、投票に行って白票すら入れるべきではない(投票率が上がれば選挙の信頼度は上がってしまう)のと同じ理屈だ。


ありがちな阪神ファンとはまさに日本人の縮図である。人として善良なだけでは、この複雑な世界は泳ぎきれないし、生き残れない。

意地悪な主張に聞こえるかもしれないが、意思決定とはもっと戦略的に行うべきものでもあるのだ。