一応私は、27歳の段階で人生で初めての引っ越しをするときに、東京都区部、それも山手線の内側という「好環境」を捨ててクズ県に飛び込んできたわけなんだけど(まぁ、実質は南多摩県だけど)、クズ県民になってよかったと思うことがいくつかある。
何よりもクズ県は、引っ越してみるとわかるが「癒し」の力が強い。特に「水」の癒しに関しては完璧で、東京都にはない「海水浴場」と「温泉地」を多数擁している。
これだけでも十分凄いのに、「土」の癒し、すなわち「山」に関しても丹沢・津久井地域や箱根外輪山などがあり、東京都と五分かそれ以上である。
都市に目を向けても、文明開化の音が聞こえる横浜、近年発展の目覚ましい川崎や相模原、古都の趣がある鎌倉、日本の東西文化の結節点であり、伊豆・箱根の玄関口でもある小田原、ペリーがやってきた浦賀のある横須賀、相模川のほとりに大規模な工業地帯を有する厚木や平塚など、バリエーションが広い。さらにそういった県内の各都市と東京都とを東海道線や小田急線などが結んでおり、ことに小田急線を使えば日本最大の都会である新宿や、演劇の街下北沢、多摩地域にありながら都心並みの商業的発展を見せる町田などにアクセス可能で、人が生きるのに一定量必要な「カオスな刺激」を得ることも可能である。さらには、洗練された住宅街もいくつかある。
このようにクズ県は、一度住み慣れてしまうともうほかの土地には越せなくなるほどの中毒性のある地域である。首都圏において、東京に対しても一定の独立した地位を保っているといわれるが、それは横浜の力が強いからでは決してない。全体に東京よりも長くて恵まれた歴史を持ち、冬でも温暖な場所が多いため、県民はどこか長閑で、終わりなき激しい競争・闘争を好まないからである。その一方で西部の小田原あたりに行けば、質実剛健でいい意味保守的なところもある。
このように一言で「クズ県」といっても実際には様々な顔があり、西南部の「楽園エリア」と東北部の「ベッドタウンエリア」とでは、実際には異なる人種が棲息しているのであるが、東京のその他のベッドタウン、たとえば千葉県民が茨城県や自県のより東京から遠いほうに行ったり、埼玉県民が北関東や自県の北部に行ったりすることがあまりないのに対して、クズ県の場合は東京と反対側への移動も比較的多く(何せそちらは「楽園」なので)、これが「クズ県」の地域性を決定づけているといえよう。
「クズ県民」こと神奈川県民は流行に敏感でもあるが、概ねマイペースである。そして、譲らないところは決して譲らない。関東地方においては、静岡県以西の東海・近畿地方と同じく、言動がストレートで率直に生きている人間の割合が比較的高く、「プライド」はそれほど高くなくても、人として自然発生的な誇りを持った人が多いような気がする。
クズ流、もとい九頭竜神社が箱根にあるのも、決して偶然ではないのかもしれない。