※:詳細は公式サイトの特集ページを参照。

 

来年3月、代々木上原~登戸間の複々線化完成に伴い、小田急電鉄が白紙ダイヤ改正を実施する。ここでは、沿線住民の一人である筆者が、必ずしも沿線住民ではない方々のためも考えて、公開されている情報から注目すべき点をピックアップする。

 

・千代田線直通大増発、「各駅停車」も直通対象に

 

複々線区間の駅、および向ヶ丘遊園~新松田間の各駅は全駅10両編成に対応することになり、千代田線直通列車の種別としてこれまでの「急行」「多摩急行」「準急」に加わり、「各駅停車」が新登場。特に世田谷区・狛江市内から千代田線・都心方面が便利になる。

筆者注:多摩急行はダイヤ改正によって運転休止となりました。

 

快速急行が全列車登戸に停車、ラッシュピーク時でも登戸→新宿の到達時間が18分程度に。また、夕方の快速急行が多摩線に直通し、新宿対多摩ニュータウンでも京王線との競争力が強化される。

 

これまでJR南武線と接続し、1日13万人もの利用がある主要駅ながら快速急行の恩恵を受けられていなかった登戸駅に、快速急行が(日中も含め)全列車停車する。

 

これにより、向ヶ丘遊園はもとより生田から百合ヶ丘までの急行通過駅でも、快速急行の恩恵を受けられるようになる。例として、平日ダイヤで新宿発18:02の快速急行は、登戸駅(18:18着)で先を走る各駅停車(同駅18:20発)と緩急接続し、この各駅停車は向ヶ丘遊園で後続列車を退避することなく新百合ヶ丘駅まで先着し、たとえば百合ヶ丘駅には18:29に到着する。

また、この快速急行は小田急永山に18:32、小田急多摩センターにも18:35に到着し、同時間帯の京王線とほぼ同等の所要時間で新宿と多摩ニュータウンとを結ぶことになる(大手町方面では圧勝)。

 

いずれにしても、これまでに比べればかなり川崎市内(登戸~百合ヶ丘)の各駅の利用者にとってはありがたいダイヤ改正であるといえる。

 

・通勤・帰宅時間帯の特急「モーニングウェイ」「ホームウェイ」が初めて町田・相模大野に連続停車する。

 

ロマンスカーの連続停車としては、かつて多摩線に乗り入れていたホームウェイ・メトロホームウェイ号の小田急永山~唐木田間に前例があるが、小田急線を代表するこの2駅に連続停車するのは初めてのこととなる。

 

町田は横浜線やバスとの接続駅であり、相模大野は江ノ島線の分岐駅である。隣接する主要駅ながら利用性がかなり異なるので、かねてから筆者は連続停車の必要性を感じていた。このような柔軟な発想がようやく小田急からも出てきたことには、感慨深い。

 

・土休日の新宿・小田原間ノンストップ「スーパーはこね」号の両駅間の所要時間が史上初めて1時間を切る(最速59分)。また、東京メトロ千代田線から、片瀬江ノ島駅まで定期列車として「メトロえのしま号」(下りは朝に2本、上りは夕方に1本)が走るようになる。

 

これに合わせて、「メトロはこね号」の停車駅も変更となり、列車によっては町田通過の相模大野停車(相模大野で「メトロえのしま号」と分割併合運転)となる。なお、本厚木駅は町田停車系統のみが停車する。

 

かつてから小田急の一つの目標は「小田原線全線を1時間以内で走破する」ことにあったと聞く。今回のダイヤ改正で遂にその夢が実現するのだ。

新宿発(土休日)9:00、10:00,10:20の3本がそれに当たる。充当される車両は明らかにされていないが、おそらくは50000形VSEと来春デビューする新型観光特急70000形ではないかと思われる。また、新宿~箱根湯本間も最短73分となり、近年失われかけていた「ロマンスカーの高速性」が、ようやくここにきて復権される模様だ。

 

また、海水浴シーズン以外でも江の島は湘南を代表する観光スポットであり、休日ともなれば江の島の参道や新江ノ島水族館は常に観光客でにぎわっている。こういった事情を考慮してか、近年小田急では土休日に限り江ノ島線へのロマンスカーを増発しているが、千代田線からの定期での乗り入れは、今回が初となる。

 

なお、「メトロえのしま号」の小田急線内の途中停車駅は、成城学園前・相模大野・藤沢である。新百合ヶ丘・町田・大和といった駅には停車しない。かなり思い切った設定であるといえる。

また、意外にもメトロからの定期の特急列車が相模大野駅に停車するのは今回が初めてである。

詳細は小田急電鉄プレスリリースを参照のこと。

 

・通勤急行・通勤準急が新設される。また、日中時間帯には準急が千代田線と頻繁に(平日は毎時3本、土休日は毎時6本)直通運転するようになるが、その始発駅は向ヶ丘遊園や成城学園前であり、しかも狛江・祖師ヶ谷大蔵・千歳船橋に停車するようになる。

 

今回は複々線完成ということで、朝夕のラッシュ時間帯や特急のスピ-ドアップ・増発ばかりが注目されているが、微妙に昼間のダイヤも変化する。ただ、その評価は正直現時点では「微妙」と言わざるを得ないところである。

 

まず通勤急行だが、これは多摩線の唐木田または小田急多摩センターを始発とし、千代田線ではなく新宿に直通する系統である。しかも、快速急行が停車する登戸を通過し、向ヶ丘遊園には停車するという、ちょっぴりトラップな種別となるようだ。なお、当然だが経堂なんてところには停まらない。

 

おそらくこの千鳥停車(快速急行との)の理由は、ダイヤ作成上登戸を通過せざるを得ない何らかの理由があるか、向ヶ丘遊園駅の利用者もまた意外と多いことに配慮してのものと思われる。

 

通勤準急は、実は現在の準急とほぼ同じなのだが、このような名前になった理由は後述する「準急」の停車駅が増えることにある。本厚木から千代田線への運転で、朝上りしか走らないようだが、以前の準急とは違い、朝ラッシュ時に経堂にも停車する。これにより、現在は各停しか使えない経堂駅から新宿・都心方面への最短時間も、大幅に短縮することが可能になった。

 

また、近年のダイヤ改正が世田谷・狛江の近郊区間には冷遇的だったこともあり、(特に小田急線の駅から比較的遠い)利用客の他路線への逸走を防ぐ目的からか?世田谷・狛江の各駅停車だけの駅に準急が追加停車するが、これはもはや京王線快速の小田急版に過ぎない。しかも始発駅が向ヶ丘遊園や成城学園前で、それが1時間に3本も6本も走るって…うーん、普通に考えたら「邪魔」だよな。だったら、まだしも区間準急の格上げ(梅ヶ丘・豪徳寺・喜多見・和泉多摩川通過)という形のほうがよかったんじゃないのか?

今回のダイヤ改正で、いまいち腑に落ちないのはこの点である。私自身は始発列車が使えるのは嬉しいんだけどね。

 

・その他の注意点

 

経堂を通過する急行・準急がますます少なくなる。具体的には、平日夕方・夜間の下り急行だけになる。なお、平日上り朝ラッシュ帯には、急行は走らない。

 

・結論

 

今回のダイヤ改正で、小田急はますます「設備が良くて路線が長い京王線」を目指していることがはっきりした。まぁ、それだけ京王の運輸政策が優秀ってことの証でもあるので、そのこと自体はむしろ歓迎すべきだろうとは思う。

それにしても、調布を地下化して相模原線の運転自由度を高めた京王は、やっぱりかもしれない。路線長が小田急ほど長くなく、調布以遠に10万人を超す利用客がある駅がないとはいっても、東急よりはだいぶ長い40km級の路線(京王線・高尾線・相模原線)が3本も合流して、この快適さ。50年以上もかかってやっとスタートラインに立てる小田急と比較したら、投資効率が滅茶良いのは間違いない。

 

…とはいえ、朝の京王はからきし(小田急以上に)ダメな路線でもある。実際、快速急行の頻発化で藤沢での東海道線や、中央林間での東急田園都市線への逸走をある程度防げている(ライバルが不甲斐ないこともあり)小田急にとって、次なる目標は多摩ニュータウン方面の京王の乗客を奪うことに他ならない。ただそうなってしまえば、プレスに書いてあるよりも実際の混雑率は少し上がるだろう。

 

つまり、優秀な路線でなくても混雑はするが、優秀な路線は必ず混雑するのである。皆さまには今一度、そのことを忘れないでいていただきたい。そのことがわかっていれば、一般的に不満だらけの「人気路線」への通勤電車への見方が変わり、また一方で鉄道教教徒が神聖視する路線(例えば京急)への見方もまた、逆側に偏っている(不当な神聖視である)ことがわかるはずだ。

 

・改正で得する駅・損する駅

 

◎滅茶得する駅…登戸

〇得する駅…小田急多摩センター、小田急永山、栗平

▲少し得する駅…唐木田、狛江、成城学園前、祖師ヶ谷大蔵、千歳船橋、経堂

△地獄からは救ってもらえる駅…生田、読売ランド前、百合ヶ丘

×損する駅…新松田~足柄(新松田は向ヶ丘遊園同様に特急停車が廃止となるだけでなく、新松田~小田原間の各停も減便となるので、どう考えても Nice Boat.)

 

おしまい