本日のレシピ | |
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はんぺんとモヤシのポン酢和え |
「車を持ってるかも重要よね。ドライブ行きたいし。
あと、笑顔が素敵な人!
で、優しい人!これは、絶対だよね!
あと、ケチじゃない人。
最後の1円まで割り勘とか、あり得ない。結構いるらしいですよ、こういう人。
後、いつまで話しても、話がとぎれない人で、
私の話をいつも、ニコニコ笑って聞いてくれる人で、
身長が高い人で、あと、黒い縁のメガネが似合う人で…、
ハワイアンコナのコーヒーが好きな人で…、
ブルーのワイシャツが凄く似合う人で…、
それで…、
それで、私の事が好きな人で…、
結婚なんか絶対にしてない人で……」
涼子は、言葉を詰まらせた。
知らない間に涙が、頬をつたわり、カウンターに、ぽとりと落ちた。
「やだっ、私、どうしちゃったんだろ。飲み過ぎちゃったかな。
なんで泣いてるんだろ。
ぜんぜん、悲しくなんかないのに…。
最近、涙腺弱くって嫌になっちゃう。
子どものおつかい番組見ても泣いちゃうもんな。
歳とったのかな。えっと、話し途中まで…」
「…これ。」
マスターは、紙ナプキンを涼子に渡した。
「こんなんじゃ、涙すぐ吸っちゃうよ。
何枚あっても足りないし…。
マスカラ取れちゃうし…。
肌荒れちゃうんですけど。」
そう言いながらも、涼子は、紙ナプキンで、目を押さえ鼻を啜った。
「すみません。
カウンター用のクロスの方が、水の吸い取りはいいですけど…使いませんよね。」
「クロス⁈ 布巾で涙拭くんですか?
あ~あ、マスターが残念な人に思えてきた。
バーのカウンターで涙を布巾で拭くって…。ありえないでしょ。」
「そうですよね。ありえない…ですよね。すみません。」
マスターは、バツが悪そうに笑った。
なんだか可笑しくて、涼子も、つい笑ってしまった。
「お詫びと言ってはなんですが、これ…飲んでみますか?」
マスターから、差し出されたのは、シャンパングラスに入った淡いグリーンのカクテルだった。
「なんですか?これ。」
まだ鼻を啜りながら、涼子は聞いた。
気がつくとマスカラは、見事に全部落ちてしまっていた。
「林檎のカクテルです。」
「林檎?」
「そう、林檎。林檎は涙を止める作用があるって言われてるんですよ。
シャンパンで割ってありますから飲みやすいですよ。」
「そんなの聞いた事ないけどな~。」
これ飲んだら、本当に涙止まるかな。
止まらないと身体がカラッカラッになっちゃうかも。」
そう言うと涼子は、くしゃくしゃになった紙ナブキンを何度も折りながらも、目に当てて鼻を啜った。
「止まりますよ。きっと。私が保証します。」
そう言うとマスターは優しく微笑んだ。
マスターのそういうクサくて、不器用な優しさが嬉しかった。
カクテルを手に取り、一口飲むと青リンゴの爽やかな風味と香りが口に広がり、シャンパンがパチパチと弾け、喉元を心地よく伝わった。
明日からは、1人だ。
彼を忘れるには、多分時間がかかると思う。
でも、きっと忘れられる。
絶対に後ろは振り向かない。
今までの自分をリセットするかのように目を閉じ、上を向いて深く深呼吸をした。
林檎のカクテル
効いたかも…。
涼子の目に、もう涙のかけらは残ってなかった。
本日のメニュー
はんぺんとモヤシのポン酢和え
- ●2人分
- ・はんぺん…1/2個
- ・モヤシ…1/2袋
- ・小ねぎ…2本
- ・塩・胡椒…少々
- ・ごま油…少々
- ・ポン酢…少々
- ・七味…お好みで少々
- ① 半分に切ったはんぺんを又さらに半分の正方形に切り、それをまた三角型に切る。モヤシはヒゲを取り洗っておく。ネギはみじん切りに切っておく。
- ② ごま油を敷いたフライパンにモヤシを入れ炒める。モヤシに火が通ったら、はんぺんを入れ、一緒に軽く炒め、塩・胡椒で味を付ける。
- ③ 皿に盛り、ネギをたっぷりと上にちらし、ポン酢をかけて完成。お好みで七味をかかけて下さい。