珍しく一冊の本を読みきるのに10日間を要した。
本と言っても学位論文なので、かなり手強い読書であった。
タイトルが示すとおり、ある一人の「見えない」「聞こえない」障害者が
他者とのコミュニケーションをどのように確立していったかを
客観的に研究した論文であり、筆者は現在東京大学先端科学
技術研究センター教授されているそうだ。
論文など読む機会は滅多にないけれど、これほど心を打たれたのは
数年ぶりだと思う。
研究対象者は3歳で右目を失い、9歳で左目を失って全盲となる。
そして、高校生の18歳という多感な時期に聴覚をも失い、「全盲ろう」となる。
彼や母親が多くの日記や音声テープなどを使って記録を残していたので、
その時々における辛さ、悲しさ、悲惨な体験が紹介されている。
しかし、この論文で筆者はあくまでも客観的にそれらを研究していく。
その「孤独な宇宙」の状態に耐え切れず、自ら命を絶つ障害者も
いたようであるが、彼は死を考えなかった。
それはなぜか。
それぞれの過程を検証していく文章に恥ずかしながら涙があふれた。
そして、そして・・・・
驚くなかれ、研究対象者である全盲ろう者は筆者自身なのである。
(研究者と対象者間の客観性を保つ為のアプローチも冒頭に説明してある。)
安易に書いてはいけないのかも知れないけれど、これは自分の子供が
大きくなったら絶対に読んで欲しい一冊になった。
こういう人を教授にするとは、さすが東大だ。
☆☆☆☆