前回のハミルトンの運動方程式の記事での、q j , p j を正準変数と呼ぶ。よって運動の記述の仕方は座標系の取り方の数だけある。ここで運動を一粒子の運動について限定して考えると、その運動はある座標系において、3次元の正準変数 q , p により表される。またその粒子の運動が別の座標系において、ある変数 の組Q , P により表せたとすると、位置と運動量で表される運動の組(q , p )と組(Q , P)は一対一に対応する。ゆえにq はQ , P の関数として q(Q , P) と表すことができ、同様に 関数p(Q , P)、Q(q , p)、P(q , p)が定義できる。ここで正準変数q , p によって表されるハミルトニアンH と、ある変数の組Q, Pによって表されるハミルトニアンH’は関数の形は異なるが、同様な物理的意味をもつ。そこで、ある変数の組Q , Pによって表される粒子の運動が、正準変数q , p の場合と同様に次の運動(正準)方程式
(1) dQ/dt=∂H’/∂p
(2) dP/dt=-∂H’/∂q
で表せるとき、ある変数の組Q,P を、また正準変数と呼び、変数変換(q , p)→(Q , P)を正準変換とよぶ。
ここで、変数の組から変数の組への変換が正準変換であるための条件を導く。前回の記事で扱ったポアッソン括弧は都合のよい形をしており、ハミルトンの運動方程式(1)、(2)はポアッソン括弧を用いて
(1)’ dQ/dt={Q , H’}
(2)’ dP/dt={P , H’}
と表せる。上式からも分かるように、変数の時間発展(時間微分)が、それぞれの変数とハミルトニアンのポアッソン括弧と等しくなる。
ここで、ある変数の組Q , Pが正準変数 q , p の関数Q(q , p)、P(q , p)であったことを思い起こすと、変数Qの時間発展はq, p により全微分して、
(3) dQ/dt=(∂Q/∂q)dq/dt+(∂Q/∂p)dp/dt
=(∂Q/∂q)(∂H’/∂p)+(∂Q/∂p)(-∂H’/∂q)
={Q , H’}
とまとまる。同様に変数P の時間発展もポアッソン括弧で表現できる。
ここで、以下、Qをq , p の関数とみたときのポアッソン括弧を{Q, *}q,pのように下付q , pで区別する。以下計算で、HをH’とみなし、連鎖式により
(4) {Q , H}q,p=(∂Q/∂q)(∂H/∂p)-(∂Q/∂p)(∂H/∂q)
=∂Q/∂q×((∂H’/∂Q)(∂Q/∂p)+(∂H’/∂P)(∂P/∂p))
-∂Q/∂p×((∂H’/∂Q)(∂Q/∂q)+(∂H’/∂P)(∂P/∂q))
=∂H’/∂P×((∂Q/∂q)(∂P/∂p)-(∂Q/∂p)(∂P/∂q))
={Q , H’}Q,P×{Q , P}q,p
よって、上式の関係から{Q , P}q,p = 1 となることが、{q , p} →{Q , P}なる座標変換が正準変換になる必要十分条件である。ここで{Q , P}q,pなる量は、微分積分学でおなじみの座標変換でのヤコビアン(体積膨張率)に等しく、ポアッソン括弧は変数変換における体積膨張率のようなものを意味しているといえる。すなわち、変数変換によって、その変数によって表される相空間の体積(密度の6重積分)が保存されるとき、その座標変換は正準変換となる。