あれは晴れた空だった
弾けるような音
視線は宙に弧を描く
淡い光がチカチカと眼の奥で鳴った


大好きよ 笑ってしまうくらい
愛してる 言ったことはないけれど
あなたの身代わりになれるならそれもいいなって

ハンドルを右に切る時の横顔とか
さりげなく腰に回してくれた手のひらとか
眠る時当たり前みたいに
腕を広げてくれるとことか

思い出してキリがないな
あなたは今もどこかで誰かを抱きしめる

夜の中 水を弾く白い腕と足
別の生き物みたい ゆらゆらと
たくさんたくさんまとわりつくから
たくさんたくさん 洗わないと


背中から抱きしめてくれた時の熱さとか
抱きしめ返した時の笑顔とか
歩く時 当たり前みたいに
手を引いてくれた事とか

思い出せば恥ずかしいな
あんな風に笑うことはもうないのかもしれない

明け方の 配達のバイクの音に目が覚める
世界が止まったみたい 呟いたら
あなたはほんの少し目を細めて
眠たげにもう一度あたしを腕にしまった



あの日あの時あの場所で
あなたは何でキスをしたの?


夜が来る
あたしそれなりに幸せよ
強がりじゃなく 微笑むわ
だからもう一度聞いてみたいの
もう一度触れて、確かめたいの


恋に恋してたんだねって
柔らかく諦めた笑顔で励ますように人は言う
恋に恋してちゃいけなかったの?
それ以外何ができるっていうの?



背中を見てるのが幸せだった
胸の奥からどんどん小さなキラキラが溢れてくるような
あなたを見つめてるあたしは立ち尽くして
息もできなくなる、幸せのため息

隣りに並んで歩くよりも
一歩後ろを歩くのが好きだった
同じ景色を見ているようで
同じ場所に向かってるみたいで

恋に恋してあなたに恋してた
ゼリーみたいに固まった空気の中に
言葉も、仕草も、まばたきも
全部閉じ込めて抱きしめて眠った



汗ばむ季節には太陽が
日差しの強さと触れた指先
やけどみたい 近づけなかった
もう少し近づいたら鼓動が伝わってしまいそうで

向かい合って話すよりも
同じ電車で並んで座るのが好きだった
深呼吸もため息も聞き逃したくなかった
熱い頬も隠せたでしょう

恋に恋して日めくりカレンダー
気付いたら息は白く
それでもあなたに触れる事はできなかった
寒いねって、呟くのが精一杯だ


大きく空を見上げて息を吸う
知ってる きっとあなたも
あの子を見るたび胸にキラキラが溢れてる


恋に恋してあなたも恋してた
後ろから見つめる先に
あなたの先にあの子はいつもいて
振り返ってあたしに気付いてくれる事はなかった


長い長い廊下
笑い声とあなたの声と響く 真夏の雨の中で