今年の読書は今日時点の読了ベースで76冊となったのだが、特に面白かった5冊を紹介してきたい。
中国共産党 支配者たちの秘密の世界/草思社
¥2,415
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リチャード・マグレガーの『中国共産党』は今年読んだ本の中で最も面白かった1冊だ。
本書は、中国の政治、経済、軍事、社会、歴史、思想、報道といったあらゆる分野が中国共産党の直接的あるいは間接的影響を受けるという点を広範囲な取材に基づいて明らかにしている。本書を読めば、鄧小平がなぜ中国経済を「社会主義市場経済」と位置付けたのか、あるいは中国の「資本主義」がなぜ「国家資本主義」と呼称されるのかを理解することができる。また、春先の薄煕来重慶市書記の失脚、人民解放軍副総参謀長の更迭の理由と処分プロセス、秋に開かれた中国共産党大会を理解する上でも実に有用であった。
一つだけ残念な点をあげるのであれば、個々の取材に紙幅を割くあまり中国の国家機構と中国共産党の党機構について体型的に説明されていない点である。この辺を理解しながら読むのであれば、毛里和子の『現代中国政治』、遠藤誉の『チャイナ・ナイン』などを合わせて読むと良いだろう。
「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき/日経BP社
¥2,520
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2冊目に挙げたいのがスコット・ペイジの『「多様な意見」はなぜ正しいのか』。NHKのクローズアップ現代にMITメディアラボの伊藤所長が推奨していたのを、いつも知的刺激をたくさん与えてくれる友人があまりにも欲しがっていたものだから彼に先駆けて買ってしまった本だ。
原題は"The Difference"なのだが、読み進むに連れて邦訳タイトルが非常にしっくりと来る。特に印象的だったのは「順列思考」で、それぞれの人間が様々な背景を持つことで、様々な価値観の「順列」を持ちうることを学んだ。
このアプローチは衆院選前のマニフェスト比較の勉強会でも紹介させていただいた。今後自分自身の多様性理解を深める上でも非常に重要な本となるともう。読了したものの、消化不良の感が否めない本でもあるので、今後も折に触れて読み返したいと思う本でもある。
技術者倫理とリスクマネジメント―事故はどうして防げなかったのか?/オーム社
¥2,100
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3冊目は中村昌允の『技術者倫理とリスクマネジメント』。4月の三井化学岩国大竹工場の事故に触発されて読んだ本であるが、その後の日本触媒姫路製造所の爆発事故を考察する上でも有用であった。
著者はライオンにて合成洗剤の開発研究と工業化に従事し、1991年に自らが開発責任者として携わったプラントで爆発事故を起こしてしまった人物。本書では様々な事故をケース・スタディとして扱い、技術者がどうあるべきかについて説いている。
著者は自らが開発責任者として携わったプラントで爆発事故を起こし、死亡者まで出してしまった。事故後、著者は「自己はどうして防げなかったのか?」という問題意識を持ち続けることで、自らの「罪」に向き合ってきたように思える。
著者は技術者の役割の一つに、経営者を説得するだけの力を持つべきという点を強調している。組織としてより望ましい意思決定を行うために技術者の説明責任は欠かせないものと考えるが、一方で技術者の説明を理解し、それを元に判断する素養が経営者にも欠かせないと考える。
著者は技術者向けに本書を書いたと思われるが、私のような事務職の人間にとっても非常に有意義な本であり、メーカーにおけるレスポンシブル・ケア教育において重要な役割を果たす本であると思う。
経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉 (岩波文庫)/岩波書店
¥945
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経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈下〉 (岩波文庫)/岩波書店
¥819
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4冊目はヨーゼフ・シュムペーターの『経済発展の理論』。自分が企画した勉強会を除くと最も多く参加した勉強会であるFinancial Education & Designの古典勉強会で扱った本である。この本をテキストとしてプレゼンテーションを行ったこともあり、今年最も読むのに時間をかけ、かつ精読した本であると思う。
本書では経済を従来のように静態的に捉えるのではなく、動態的に捉えることを基調とし、経済循環と経済発展の概念を重視している。後に「イノベーション」として人口に膾炙する概念も、本書では「新結合」という概念で説明されている。
プレゼンテーションを担当したものの、第3章の「信用と資本」、第4章の「企業者利潤あるいは余剰価値」、第5章の「資本利子」の部分は未だにきちんと理解できていない。今後も読み返す必要のある1冊である。
ドラッカー名著集9 「経済人」の終わり/ダイヤモンド社
¥2,100
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5冊目はP.F.ドラッカーの『「経済人」の終わり』。ドラッカーの処女作であり、かのウィンストン・チャーチルが書評で絶賛したとされる作品である。私のお気に入りの文章は、「ファシズム全体主義には、前向きの信条がない代わりにおびただしい否定がある」というくだりで、このファシズム批判こそがその後の『企業とは何か』や『マネジメント』につながってゆくと考えて良いだろう。
本書を読んだきっかけはドラッカー読書会の課題本であったことにある。途中から参加した読書会であったが、最初に処女作である本書に出会えたことは運の良いことだった。その後もドラッカー読書会には継続的に参加したこともあり、3周目の読書会の管理人を引き継ぐこととなった。
今年も運良くたくさんの良書に出会うことができた。良い本との出会いは、良い人との出会いをもたらす。また、良い人との出会いは、良い本との出会いをもたらす。来年も良い本、良い人と出会えることに期待したい。
中国共産党 支配者たちの秘密の世界/草思社
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リチャード・マグレガーの『中国共産党』は今年読んだ本の中で最も面白かった1冊だ。
本書は、中国の政治、経済、軍事、社会、歴史、思想、報道といったあらゆる分野が中国共産党の直接的あるいは間接的影響を受けるという点を広範囲な取材に基づいて明らかにしている。本書を読めば、鄧小平がなぜ中国経済を「社会主義市場経済」と位置付けたのか、あるいは中国の「資本主義」がなぜ「国家資本主義」と呼称されるのかを理解することができる。また、春先の薄煕来重慶市書記の失脚、人民解放軍副総参謀長の更迭の理由と処分プロセス、秋に開かれた中国共産党大会を理解する上でも実に有用であった。
一つだけ残念な点をあげるのであれば、個々の取材に紙幅を割くあまり中国の国家機構と中国共産党の党機構について体型的に説明されていない点である。この辺を理解しながら読むのであれば、毛里和子の『現代中国政治』、遠藤誉の『チャイナ・ナイン』などを合わせて読むと良いだろう。
「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき/日経BP社
¥2,520
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2冊目に挙げたいのがスコット・ペイジの『「多様な意見」はなぜ正しいのか』。NHKのクローズアップ現代にMITメディアラボの伊藤所長が推奨していたのを、いつも知的刺激をたくさん与えてくれる友人があまりにも欲しがっていたものだから彼に先駆けて買ってしまった本だ。
原題は"The Difference"なのだが、読み進むに連れて邦訳タイトルが非常にしっくりと来る。特に印象的だったのは「順列思考」で、それぞれの人間が様々な背景を持つことで、様々な価値観の「順列」を持ちうることを学んだ。
このアプローチは衆院選前のマニフェスト比較の勉強会でも紹介させていただいた。今後自分自身の多様性理解を深める上でも非常に重要な本となるともう。読了したものの、消化不良の感が否めない本でもあるので、今後も折に触れて読み返したいと思う本でもある。
技術者倫理とリスクマネジメント―事故はどうして防げなかったのか?/オーム社
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3冊目は中村昌允の『技術者倫理とリスクマネジメント』。4月の三井化学岩国大竹工場の事故に触発されて読んだ本であるが、その後の日本触媒姫路製造所の爆発事故を考察する上でも有用であった。
著者はライオンにて合成洗剤の開発研究と工業化に従事し、1991年に自らが開発責任者として携わったプラントで爆発事故を起こしてしまった人物。本書では様々な事故をケース・スタディとして扱い、技術者がどうあるべきかについて説いている。
著者は自らが開発責任者として携わったプラントで爆発事故を起こし、死亡者まで出してしまった。事故後、著者は「自己はどうして防げなかったのか?」という問題意識を持ち続けることで、自らの「罪」に向き合ってきたように思える。
著者は技術者の役割の一つに、経営者を説得するだけの力を持つべきという点を強調している。組織としてより望ましい意思決定を行うために技術者の説明責任は欠かせないものと考えるが、一方で技術者の説明を理解し、それを元に判断する素養が経営者にも欠かせないと考える。
著者は技術者向けに本書を書いたと思われるが、私のような事務職の人間にとっても非常に有意義な本であり、メーカーにおけるレスポンシブル・ケア教育において重要な役割を果たす本であると思う。
経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉 (岩波文庫)/岩波書店
¥945
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経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈下〉 (岩波文庫)/岩波書店
¥819
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4冊目はヨーゼフ・シュムペーターの『経済発展の理論』。自分が企画した勉強会を除くと最も多く参加した勉強会であるFinancial Education & Designの古典勉強会で扱った本である。この本をテキストとしてプレゼンテーションを行ったこともあり、今年最も読むのに時間をかけ、かつ精読した本であると思う。
本書では経済を従来のように静態的に捉えるのではなく、動態的に捉えることを基調とし、経済循環と経済発展の概念を重視している。後に「イノベーション」として人口に膾炙する概念も、本書では「新結合」という概念で説明されている。
プレゼンテーションを担当したものの、第3章の「信用と資本」、第4章の「企業者利潤あるいは余剰価値」、第5章の「資本利子」の部分は未だにきちんと理解できていない。今後も読み返す必要のある1冊である。
ドラッカー名著集9 「経済人」の終わり/ダイヤモンド社
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5冊目はP.F.ドラッカーの『「経済人」の終わり』。ドラッカーの処女作であり、かのウィンストン・チャーチルが書評で絶賛したとされる作品である。私のお気に入りの文章は、「ファシズム全体主義には、前向きの信条がない代わりにおびただしい否定がある」というくだりで、このファシズム批判こそがその後の『企業とは何か』や『マネジメント』につながってゆくと考えて良いだろう。
本書を読んだきっかけはドラッカー読書会の課題本であったことにある。途中から参加した読書会であったが、最初に処女作である本書に出会えたことは運の良いことだった。その後もドラッカー読書会には継続的に参加したこともあり、3周目の読書会の管理人を引き継ぐこととなった。
今年も運良くたくさんの良書に出会うことができた。良い本との出会いは、良い人との出会いをもたらす。また、良い人との出会いは、良い本との出会いをもたらす。来年も良い本、良い人と出会えることに期待したい。