ここ数年、クリスマス・イブは一人でDVDを観るというのが常態化しているようで、今年も例年通りDVDを観ることにした。今回は特にお気に入りの作品で、今年ようやくDVD化されたジェラール・ドパルデュー主演の『シラノ・ド・ベルジュラック』、ジブリの『紅の豚」、劇団四季吹き替えバージョンの『オペラ座の怪人』を鑑賞した。

この3つの作品のプロットは非常に似通っているものなのだけど、「どの作品が最も好きか?」と問われれば迷わず『シラノ・ド・ベルジュラック』を選ぶ。

シラノ・ド・ベルジュラック ジェラール・ドパルデュー HDマスター [DVD]/IVC,Ltd.(VC)(D)

¥5,040
Amazon.co.jp

この作品と出会ったのはちょうど10年前、大学3年生の時に受けていたフランス語の再々履修においてである。「再々履修」とあるように、1年次で落としたフランス語を、2年次にも落とし、3年次で三度フランス語を履修していたのである。3年次にフランス語を3つ履修していたことから、一部では「法学部政治学科兼仏文科」と言われていたくらいだ。

フランス映画を観て、台本を翻訳するという非常に面白い講義であり、この講義を通して私はフランス映画の面白さというものを知ることとなった。(一方で、フランス語の面白さを知ることは現在までのところないのであるが…)。

この作品は元々エドモン・ロスタンの戯曲であり、下記のように最近光文社から渡邊守章の翻訳が出ている。(それまでは岩波文庫から出ている辰野隆・鈴木信太郎訳が有名であった)。比較的著名な作品ということもあり、演劇としても頻繁に上演される。私は2006年に新国立劇場で上演されたアレンジ版と文学座で上演されたオリジナル版を観ている。

シラノ・ド・ベルジュラック (光文社古典新訳文庫)/光文社

¥980
Amazon.co.jp

この作品の最大の見所はロマン主義的な美しい作風と、最後の最後までかなうことのないシラノの絶望的なまでの片想いだ。しかもその片想いは、愛する人を想うがゆえ、大切な友を想うがゆえのものである。シラノの「心の痛み」というものが、要所要所で克明に描かれており痛いほど伝わってくる。

バルコニーのシーンなどはその象徴で、クリスチャンとロクサーヌのためにシラノは美しい言葉の限りをつくし、最後の最後でクリスチャンをバルコニーに押し上げてロクサーヌと接吻をさせる。映画では、シラノが去ってゆくシーンで雨を降らせており、シラノの敗北感と孤独感を十二分に引き立てている…。

10年前にこの作品を初めて観た時、ちょうど私は失恋をしたばかりであった。たとえ自分の想いを遂げることができなくとも、嫉妬をすることもなく、愛する人と大切な友のためにただひたすら詩を書き続け、命を賭けたシラノの高潔な姿に心を打たれ、自分もかくありたいと思ったものだ。

いくとせの君への想ひ胸に秘め君に尽くすは愛あればこそ

そんな中で詠んだのがこの短歌である。シラノの「絶望的な片想い」というスタイルは必ずしも多くの人に支持をされる恋愛ではないと思う。より実利的に考えるのであれば、「バカらしい」とか「単なる自己満足」と切って捨てられたっておかしくない。それでも、「そんな恋があったって良いではないか」と思う人はいるだろう。少なくとも私はその一人である。