ガンガラーの中は暗く、水の音が絶え間ない。

絶え間なさにも慣れると、その中の変化に気がつく。


生まれてからずっと、跡取りとして育てられた。

生きているのに、期待されているのは、死んだ後の功績。

裏切らないこと…だ。

きちっとした日常生活、親戚、ご近所付き合い、伝統の継承。

定石。

動かない石。

僕が引いて行く糸。


僕が自由になったのは、彼女を知ってからだ。

決まりきった決め事に、変化を示す。

それでいても、自分の根本にはなんの差し障りもなかった。

それどこか、彼女が来て、根幹が強められた。

彼女の望みを叶えることが、自分に成った。

水の音が変わり、流れが変わった。

それでも、糸はそのままだ。


闇の中でも僕は進めるのかなと思ったけど、

以外と道は易しく、彼女が言う通り、水の音を頼れば、源泉にたどり着けそうだ。

僕の前には、不思議な月明かりほどの明るさがある。

尽きることのない感じだ。

彼女も同じ月に照らされてる。


左の腕に通した彼女の糸は、僕の手の中で伸び増していく。

合わせた指の先から、蚕が糸を吐くように伸び生まれる。


見えない彼女を確かめ、糸を引くと、硬い手応えがある。

張った糸を爪で弾くと、ピーンと音が鳴る。

進んだ距離のそのまま、僕たちの音が洞窟に鳴り響く。

一人じゃない闇。

彼女から返る、僕より弱い糸の音。


水の音が、濁流から、川の流れに変わり、合流するものがなくなり、単川になった。

この辺りから、自分の足音まで聞こえるようになった。

僕は彼女に請われてここまで来たけど、本当に自分の気持ちで永遠を取りに行けるんだろうか。

彼女がいなくても。


僕は彼女から預かった緋色の小刀を出し、糸を切った。


流れる月明かりに、銀色に光った剣刃は、糸をキュウキュウに軋ませ、洞窟を鳴り響かせ、糸を切った。

鍾乳洞の柱に糸を二重結びにし、一度鳴らし、僕は前に独り進んだ。

彼女が不安気に、何度も鳴らす糸の音を聞きながら。


月の下。

突然、糸が私の手首に絡まり軋み、痛みが走り、耐えられないと思った瞬間、軋む音と一緒に、糸の重みが切れた。

そして、一度音が鳴ってから、手応えがなくなった。

糸の音色が変わった。

音を鳴らしても、返ってこない。

あなたは、いなくなってしまった。


永遠なんて、望まなきゃよかった。

今、独りになることの方が怖い。

涙が流れた。

永遠なんて、望んじゃいけない。


月は高く、丸く、白く、光っていた。