建国時には“辺境の地”であったはずのアメリカが、世界における《例外の国》になり得た真の原動力
3/21(土) 7:30配信
東洋経済オンライン
アメリカが「特別な国」となった原動力について解説します(写真:こたつ/PIXTA)
Make America Great Again――。ことあるごとにトランプ大統領が口にするこのスローガンについて、何をもって「偉大」とするのかは判然としないところですが、武者リサーチ代表の武者陵司氏は、私たちは嫌米・親米の立場によらず、アメリカが「特別な国」であることだけは認める必要があると言います。
武者氏が指摘する、辺境の地での建国からわずか400〜500年ほどで、世界のスーパーパワーへとのし上がったアメリカの「特別さ」とはいったい何なのでしょうか。同氏の著書『トランプの資本主義革命』から一部を抜粋・編集する形で解説します。
■世界に対して「特別な使命」を負っている
「アメリカ例外主義(American exceptionalism)」という言葉をご存じだろうか。
これは、アメリカが歴史や政治制度、それらに支えられた国の発展成長など、他の先進国とはまったく違う優位性を持ち、物質的・道義的に比類ない存在であることから、世界の安全、世界の人々の福利に対して特別な使命を負っていることを指している。
嫌米の立場をとっている人たちからすれば、「何をふざけたことを」と言いたくなるところだと思うが、私はアメリカが「特別な国」であることを認める必要があると考えている。
まず大前提として、資本主義の母国はアメリカであることを指摘しておきたい。
イギリスは資本主義をつくったが、完成させることはできず、結局、途中でアメリカやドイツに敗れ、英国の産業は衰退した。海外に対する金融と海運で儲けたが、国内が潤わなかったことが大きな原因である。イギリスの覇権はおよそ100年で終わりを告げた。
なぜ、イギリスは資本主義を完成させることができなかったのか。それはイギリスが、貴族を頂点とする階級社会だったからだ。
イギリスの階級は3つに分かれているとされている。「上流階級」「中流階級」「労働者階級」だ。
上流階級は王族、貴族であり、中流階級は医者や弁護士、企業経営者から、教師、エンジニア、公務員、会社員まで幅広く含まれている。そして労働者階級とは文字どおり、肉体労働を行う人たちのことである。
そしてイギリスにおいては上流階級の人々が、専ら自分たちの豊かさのみを追求するため、中流階級や労働者階級から富を収奪し、それを海外に流すグローバル投資を行った。
たとえばアメリカの大陸横断鉄道は、イギリスの資本が入っていたし、観光地として有名なスイスの観光インフラも、そもそもはイギリスの上流階級の人々がスイスに旅行するのを目的にして整備されたといわれている。
山の空気、アルプスの湧き水、乳清(ホエイ)、スイスの温泉の癒し効果はロンドンのサロンにもすぐに知れ渡った。
トーマス・クックが欧州大陸を巡る初の団体旅行を手掛けた1858年頃から、スイスはすでに外すことのできない観光地になっていた。そして交通網の拡大で魅惑的なアルプスの世界に行きやすくなったことも、スイスを人気の観光地に押し上げる要因となった(Swiss info chより)。
イギリスによるインドの直接統治、エジプトの保護国化、南アフリカ連邦の樹立なども、その裏には「金融ジェントルマン」といわれたイギリス上流階級が、自分たちに利権を誘導するために推進したといえなくもない。
■「イギリス資本主義」の最大の失敗
こうしてイギリスは覇権国家として、世界の7つの海を支配したが、それによって豊かになったのは、上流階級の人たちだけであり、生み出される富の多くが海外由来のものとなった。
海外に資本をばらまき、そこから得られる富は上流階級が独占する。このような資本主義では、イギリス国民全員が豊かになることはなく、国内市場も発展しない。その結果、イギリス国内の産業発展はやがて限界を迎え、アメリカやドイツに工業力で敗北した。
南北戦争やドイツ帝国の成立、日本の明治維新などイギリスに続く諸国が産業立国の体制を整えた1870年から第一次世界大戦までの40年間、イギリスの工業生産は2倍にしかならず、アメリカの8倍、ドイツの6倍、フランスの3倍に大きく劣後した。
こうしたイギリスの富の配分が間違っていることを最初に指摘したのが、イギリスの経済学者であるジョン・アトキンソン・ホブソンである。彼は『帝国主義論』(1902年)という著書を書いた人物で、イギリスの学会からは常に疎まれる存在だったが、イギリス経済が長期停滞を余儀なくされた原因を的確に指摘した。
彼の主張は、イギリス資本主義の最大の失敗は、生み出された富を、イギリス国内での商品・サービスの需要(消費力)に使うのではなく、海外への投資に用いたことだという。
それとともに、金本位制を採用していたことも、イギリスの経済成長を阻む原因のひとつであることも指摘した。
金本位制のもとでは、通貨発行量が保有している金の総量に限定されてしまう。その結果、産業革命を経て、イギリスは世界の覇権国になったものの、1870年代には長期にわたる需要不足とデフレ経済に悩まされることになった。
それに対してアメリカは、英国のような道を歩まなかった。自ら需要を創造し、国内の需要が新たな産業の受け皿となり、国民の生活水準を向上させ続けた。
その手段として、アメリカは常にフロンティアへ進出し続け、そのフロンティアにおいてアメリカン・ドリームが実現されていった。
地理的なフロンティアは、大陸東部から大陸西部へと広がり、産業においては石油産業、自動車産業が勃興し、それらがすべてアメリカ国民の豊かな生活に結び付いた。これは現在も同じで、テクノロジーやサイバー、宇宙の分野において、アメリカは常にフロンティア・スピリットを発揮し続けている。
■「建前と本音」が常に一致しているアメリカ
この米英の差はあまりにも大きい。特権と既得権にすがるイギリスの上流階級と、常にフロンティアを求め、そこでの成功を目指すアメリカとでは、資本主義の型がまったく違う。
そして絶え間なきフロンティア・スピリットは、過去の成功体験に囚われることなく、新天地に向かわせる原動力となり、アメリカ国民に経済的な豊かさをもたらしてきた。資本主義という言葉は、まさにアメリカのためにあるといっても過言ではないだろう。
それに加えて、イギリスから持ち込まれたピューリタン思想が、アメリカという国の基盤に定着している。ピューリタン思想のもとで、フェア、ケア、シェアという、隣人への深い愛を持つ人間関係を重視する倫理感が育まれた。
またアメリカは、建前と本音が常に一致している点も際立っている。
建前と本音がずれてくれば本音に基づいて建前を変えるしかない。その合一が維持できなければ、既得権益にすがりつきフロンティアを目指す精神が失われる。そうなってはフロンティアでの成功を収めることはできない。
また、アメリカには過剰といっても過言ではないほどの、国家に対する自負が存在している。いわゆる「マニフェスト・デスティニー」という考え方だ。
それはアメリカこそが、神から世界のリーダーたるべき存在であることが認められ、その使命を与えられた運命にある国であるというものだ。
このマニフェスト・デスティニーが、アメリカという国家の一体性と、フロンティアを不断に拡大していくという側面を併せ持ち、アメリカの国家としての繁栄の形をつくり上げてきたと考えられる。
■資本主義の根底にあるモチベーション
わずか400〜500年前には辺境の地であったアメリカが、今日のように世界のスーパーパワーになり、それが維持されている背景には、マックス・ウェーバーが著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で論じたように、プロテスタンティズムの教えが重要な理念として定着していたことが挙げられる。
神の意志に応えようとする禁欲的労働が、資本の原始的蓄積をもたらしたという、資本主義の根底にあるモチベーションである。そのプロテスタンティズムを体現する人格としてマックス・ウェーバーが取り上げたのが、ベンジャミン・フランクリンである。
ベンジャミン・フランクリンは、「アメリカの建国の父」の1人であり、アメリカの独立運動の指導者である。凧の実験で雷の正体が電気であることを証明した科学者でもあり企業経営者であり政治家でもある実践家であった。「時は金なり」という格言を残したりもした。
当時、イギリス領だったマサチューセッツ州ボストンに生まれた、生粋のアメリカ人である。ということは、資本主義精神の根本的なモチベーションは、アメリカで生まれたともいえる。
初めは偶然ではあったかもしれないが、それがあったからこそ、イギリスで生まれた資本主義が、アメリカで花開いたと考えることもできる。
■トランプが目指す「価値観の革命」
アメリカはこうしたDNAを内包した国であり、それはいまも変わらないと思いたい。しかし、このDNAが近年、アメリカのエリート層の理想主義的・左翼的価値観、DEIやポリティカル・コレクトネスによって崩壊しかねない状態にある。
実際、ハーバード大学の学生のあいだでは、頭の中はエリート意識で一杯であるにもかかわらず、口先では平等を訴えるという、「建前と本音の不合一」が生じているとの指摘が目立つようになった。
建前と本音の合一が、既得権益にすがりつくことなく、常にフロンティアを目指す精神を持ち続けるのに必要であるとするならば、まさにアメリカの美徳ともいうべき良い側面が、崩れかけていることを意味する。
だからこそトランプ大統領は、目指す政策のひとつとして「価値観の革命」を掲げていると解釈できるのだ。
フランスの思想家エマニュエル・トッドはこのプロテスタンティズムが消滅してしまったことが、アメリカの致命傷になっていることを指摘し、アメリカが西欧とともに敗北すると論陣を張っている。
武者 陵司 :武者リサーチ 代表