現代は、症候群と名のつく病気が氾濫している。
症候群が病気か否かという議論もあるが、ここでは症候群を病気として扱うことにする。
その症候群の中でも非常に興味深い(といっては失礼にあたるが)症候群がある。
例えば、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群である。
この病気は、意識を集中している時は正常だが、
集中が途切れたり感情が高ぶったりすると症状が現れる。
主な症状としては、チックや動物的な奇声をあげ、汚言を口ばしるという。
ちなみに汚言とは、糞便関係の言葉である。
トゥレット症候群は、医者に多い病気だという。
他にも、クルーバー・ビューシー症候群というものがある。
これは、側頭葉の前側皮質や扁桃体の損傷により起こる病気である。
主な症状としては、身近にあるものを何でも口に含んだり、
それらとセックスするという。
この症例では、歩道相手に激しく腰を打ちつける男性や、
ガードレールを腰で揺さぶる男性などが報告されている。
これらは深刻なものだが、現代は何でも症候群という名をつけたがり、
病気に仕立て上げる傾向にある。
人前で上手に話せないのも病気、
社会に出たくないのも病気、
タバコを吸うのも病気、
という具合である。
このようにして社会から排除されていく人々がいるのである。
異常と正常の境目は非常に曖昧だというのに。
常識的なことが正常なのか?
合理的なことが正常なのか?
現実的なことが正常なのか?
それとも、安心感を得られるものが正常なのか?
いずれにしろ、人間が異常者を排除しようとするのは、
不安を低減しようとしているからである。
そんなことになってくると、いろいろな症候群が考えられる。
例えば、「独身」症候群とか、「面倒くさい」症候群とか。
ニート症候群、おたく症候群、ロリコン症候群、IT症候群、
Web2.0症候群、下流社会症候群、バカの壁症候群、ヒルズ族症候群
なんてものまで出てきそうな勢いだ。
こうなると、正常な人がほとんどいなくなる。
健康増進法だとか健康グッズ・サプリメント
などが氾濫している現代なのにもかかわらず、病名は付けたがる。
全くおかしな話である。
本来、症候群とは適切で厳格な診断基準の下に名づけられるべきである。
しかし、安易に症候群と名づける行為により、
面白おかしく語られる風潮ができつつある。
これは、「症候群」症候群といえるのではないだろうか。
と、私も症候群と名づけてしまいましたが。
国民総病気化の日は、着々と近づいていると思える。
[今回の参考文献]
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