ここ数年、臨床心理士の門戸が拡大している。
心理学人気とも相まって、臨床心理士の資格を取れる大学院が急増している。
しかし、門戸は広くても就職先がないという現状。
医療の現場でないがしろにされる肩身の狭さ。
民間資格であるがゆえの苦渋。
そんなことが問題となっている。
医療心理師とともに臨床心理士が国家資格になるという案が浮上したが、
厚生労働省と文部科学省の利権争いによる足の引っ張り合いの結果、
法案提出前に国会が閉会してしまうという体たらくぶり。
次は、いつ法案が提出されるのかもわからない状況である。
恐らく、4年制大学卒でも取得可能な医療心理師の方が
先に国家資格になるというのが大方の見方のようだ。
先生方の意見も自分達の立場と相まって、バラバラである。
我が大学の心理学科を見下しているS教授は、
「カウンセラーなんてくだらない」と語る。
N先生は、
「臨床心理士などという資格は役に立たないから取るな」と語る。
脳科学者のT教授は、
「脳のことが全てわかれば、カウンセラーなどいらなくなるし、薬で全て解決できる」と語る。
Y助教授は、
「臨床心理士の資格を取れば、大学教員という就職先はある程度保障されている。
さらに、臨床心理士が国家資格になれば、
すでに資格を取っている人も再度試験を受けなければならないが、
既取得者には優遇措置が適用されるだろう。
でも、お金と時間に余裕があるなら医者になった方がいいかも。」と語る。
精神と身体性が不可分だと考え、T教授を批判するK教授は、
「臨床心理士は現場レベルでもっと必要だ。
脳のことがわかっても身体性をケアするためのカウンセラーは必要になってくるだろう」と語る。
様々な意見が飛び交うが、最も重要なことが忘れ去られていることに誰も気づいていない。
それは、臨床心理士になろうと懸命に勉強している人たちのことである。
彼ら彼女らは、金と時間と労力を惜しみなく費やし、懸命に努力している。
そんな人たちが資格を取得し、いざ働こうと思っても就職先がなかったり、
資格取得に意味がなかったと悟るときの気持ちを理解している輩が、
どれだけいるというのだろう。
臨床心理士を目指す学生からの批判や苦情が少なすぎるのも考えものだ。
もっと発言をすべきは、学生達のはずである。
せめて、彼らの費やした金と時間と労力に見合うだけの見返りを用意する必要がある。
せめて、彼らの努力が水泡に帰すような結果にならないことを祈る。
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