今回は、「悲しみ」という情動を取り上げよう。
広辞苑によると「悲しみ」は、泣きたくなるほど辛いこと、心が痛んで耐えられないこと、とある。
では、心理学において「悲しみ」という情動は、どのように考えられているだろうか。
ジェームズ=ランゲ説(末梢起源説)では、
末梢における身体的・生理的変化が主観的情動経験を引き起こすとし、
泣くから悲しいと捉えた。
一方、キャノン=バード説(中枢起源説)では、
情動経験における中枢神経系の作用を重視し、悲しいから泣くと捉えた。
これらは、シャクターの情動二要因論、パペッツの情動回路、
ルドゥの二重経路説、ダマシオの脳モデルなどに発展していく。
悲しみという情動には、しばしば涙という表出がつきまとう。
涙は哀しい時にも、嬉しい時にも、悔しい時にも、笑いすぎた時にも、欠伸した時にも流れる。
あと、目が渇いた時とか、痛い時とか。
人間において、排出行動は往々にして快感を伴うものである。
嗚咽混じりの涙は辛いだけだが、涙を流すという排出行動にも快感を伴うことがある。
涙を流した後にスッキリすることがあるのは、恐らくこの快感が関与しているのではないだろうか。
ゆえに現代の多くの人々が、涙を欲しているのではないか。
しかし、ドーパミンが大量に分泌されることで生じるとされる幸福感には、
否定的な感情の不在が必要条件である。
悲しみと幸福感は矛盾する情動だが、
人間は、悲しみを幸福感に変えることもできる。
悲しみから幸福感を追求するという、人生の楽しみ方もあるのかもしれない。
[今回の参考文献]
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