NIKKEI DESIGN
ユニバーサルデザイン事例集100―使いやすさの達成度をPPP評価法で解き明かす

今回はいつもと趣きを変えて、統合をテーマとしたビジネス本を紹介しようと思う。その名も「ユニバーサルデザイン事例集100」。
ユニバーサルデザインは元々、1980年代にアメリカで提唱されたデザイン思想で、「統合されたデザイン」という意味を持ち、子どもからお年寄り、健康な人からチャレンジド(障害を持つ人)まで、すべての人にとって公平なデザインの実現を目指す考え方を言う。
私ごとになるが、今から十数年前、アメリカからこの思想を持ち帰った当時、専門分野の空間デザイン・建築といった分野はおろか、その他のデザイン領域においても、日本ではユニバーサルデザインの言葉すらほとんど知られておらず、業界関係者やクライアントに理解してもらうのは、本当に至難の業だった。
その頃から比べると、時代はかなり前進したと思う。最近では、書店の専門書のコーナーに、多くのユニバーサルデザインに関する本が並ぶようにもなった。
そんな中、本書をピックアップした理由は、あらゆるデザイン分野の具体的な事例があげられているだけでなく、ユニバーサルデザインの客観的な評価基準を設け、実践を提案している点である。「PRODUCT」「PERFORMANCE」「PROGRAM」の意味を持つ「PPP」という評価基準に基づいたチェックシートを作成し、第三者に評価してもらうというものだ。これによって、これまで難しいとされてきたユニバーサルデザインの実現の度合いを図る尺度についても、ある程度認識ができるようになっている。実際にサンプルシートも付属している為、実用度も高い。
また、ユニバーサルデザインの事例についても、お年寄りから子どもまで持ち易いシリコン製の食器ホルダー「タグカップ」をはじめ、骨伝導技術搭載で相手の話す声の早さを約0.75倍に変換し、声の高さを8段階に調節する「骨伝導電話機」、20冊分の本を記録し、朗読を行う読書専用端末「リブリエ」、運転席、助手席、内側、外側どちらからでもスイッチ操作ひとつで開閉できるスライドドアの自動車「ポルテ」など100アイテムを紹介。既存の概念にとらわれない、こうしたさまざまなデザインの試みは、単なるデザイナーのツールとしてだけではなく、モノを売る人、モノを作る人、あらゆる人にインスピレーションを与えてくれるだろう。

【目次】
UDの市場動向 消費者の約7割がUD製品の購入・利用に意欲的
インタビュー ユニバーサルデザインは顧客視点の企業運営を促す
 TOTO
 富士通
 コクヨ
 トステム
 丹青社  ほか
PPPの考え方
ユニバーサルデザイン事例集100
 旭化成ライフ&リビング「サランラップ」
 アシックス「コモディアナレディースセパレーツ水着」
 アバンテク「トライクシティ」 ほか