病院に入ると、受付があって、待合室があって、「診察室」「検査室」と書かれた二つの扉があった。待合室には緑色の大きなソファが三つ、壁に沿って置いてあった。足が木でできていて、座るところはやわらかくて、柄があって、ちょっと高そうだと思った。あとは新聞と、ピカソの画集が置いてあった。壁には絵が何枚か、一列に並べてかけられていた。病んでいる人に気を使って、意図的に心が落ち着く部屋にしようとしている感じがしなくて良いなと思った。


精神科の先生に対するイメージは、なれなれしくて、親身なフリ、もしくは、本当に親身になって話をきいてくれる人。そしてきっと気持ち悪いくらいの笑顔をたたえた、うさんくさい顔をしたおじさんにちがいない。そして私は全く何も話す気になれなくて、話が進展しないまま今日はおうちに帰るのだろう。そんなことをぼんやり考えながら待合室のソファに座っていた。



順番が来た。

診察室に入ると、中はまるで校長室のようだった。

先生は大きな机の後ろででかい椅子に深く座りすぎで、頭しか見えなくて、姿勢も悪いし、目つきも悪いし、ぜんぜん優しそうじゃないし、てゆうかふつうのおじさんだし、むしろちょっと性格悪くてちょっと機嫌も悪いおじさんに見えるし・・・全部予想と違って「えぇ?まじ?」くらいの衝撃があった。

どっちにしろ、わりと嫌な印象だった。


しかし、とても話しやすかった。話はどんどん進んで、先生は質問の仕方がうまかった。質問に答えているだけなのに、わりと言いたいことが言えた。てきぱきとした質問と返答のやりとりが続いた。先生は、簡単なメモをとっているようだった。最後に、薬が処方されて、「じゃあお疲れ様」と言われておしまい。あっさりしていて、思っていたよりラクだったし、言いたいところは言えて満足だった。だらだらと話してめそめそ泣き続ける羽目にならなくて良かった。


最後の方で先生は笑うようになった。

「始めに不機嫌な顔をして、最後に笑うのも心理的な作戦のうちなのかなー?」などと思いつつもイイ気分で病院を去った。


ちなみに処方されたお薬は抗うつ剤。






高校3年生の冬に、3カ月くらいかけて髪がほとんどなくなった。

頭の一部分だけ髪が残って、あとは毛穴も見えないくらいつるつるの頭になった。


そのときは、ストレスによる脱毛症だと思っていた。

病院に行っても、「無理に抜いたあとは見られません。多発性円形脱毛症でしょう。」「受験が終わったら治るでしょう」と言われた。


とりあえず、受験会場に行くのがツラそうなので、カツラを買ってもらい、以来カツラ生活をしている。

大学では、部活のときだけカツラを外している。

部活の人には、「受験とかモロモロのストレスで脱毛症になったけど、そのうち治ると思う」と話していた。


入学当初は、9月頃には完全にカツラを外せるだろうと思っていた。

実際には、今もカツラは外せていなくて、髪はてっぺんだけふさふさしていて、おでこの近くは禿げていて、耳の後ろはつるつる、側面と後ろは1cmくらいの短髪。


いつまでも元通りにならない原因は、髪が生えてくるのが遅いのと、伸びるのも遅いのと、何より生えてきた髪を自分で抜いてしまうことだとわかってた。


わかっているけど、なぜか抜いてしまっていた。

その行為を「わかってるけど、なんか抜いちゃう」それ以上なんとも思わなかった。


10月7日の夜、ミカン(部活の友人)から「世界仰天ニュース見てる?」というメールが来た。

「自分で抜いてるからししゃものとはちょっとちゃうかも~。抜毛症っていう病気なんやって~。」

その日の放送に、「美しい顔が壊れる恐怖の癖」というタイトルで、抜毛症の話題があった。


抜毛症という言葉を初めて聞いた。

テレビがなかったので、ミカンに頼んで、テレビの内容をもう少し詳しくメールしてもらった。


自分は抜毛症じゃないかと思えた。

始めのころから、髪を自分で抜いているという自覚はあった。

とゆうか自然に抜けたことなど始めからほとんどない。

触っているとおもしろいくらいに簡単に取れるから、夢中になって髪をいじってた。

でも、毛根が弱っているのは確かだったから脱毛症だと思っていた。



ネットで抜毛症を調べた。

体験談を読むうちに、自称抜毛症の人の気持ちに共感できて、状況もそっくりな人が多くて、最終的に自分は絶対に抜毛症だと思った。


精神科に行く人もいることを知った。

すぐに精神科を調べて、家の近くの精神科に行くことにした。