今回は、相続放棄の申立てが受理されなかった場合の対処方法について、2記事にわたって説明をしていきたいと思います。
私の場合、自分と親族の分をあわせて5人分の書類を作成して提出をしましたが、いずれも受理され、不服申立てを行う機会はありませんでした。
当ブログが体験記を謳っている以上、自ら体験していないことを書くのはどうかな?…とも思ったのですが、
このブログを見て自分自身で申立てをしようとした方に対して最悪の事態に陥ったときの対処法を記載しないのは、あまりにも不親切であると思い直しました。
なぜなら、相続放棄の申立てを自分で行うということは、最悪の判断が出た場合の対処も自分で行うということに外ならないためです。
そこで、司法試験受験生時代に得た知識と私の相続放棄手続きにおける経験から推測できることを含めて、
1・今回の記事では、不服申立て制度の概要と注意点について、
2・次回の記事では、
●申立てが受理されなかった際に私が行おうと考えていたこと
●これに備えて私が事前に準備していたこと
…を中心に説明していくことにします。
1・不服申立て制度の概要について
相続放棄の申立てを認めない(却下する)旨の決定があった場合、以下の過程を経て、高等裁判所で不服申し立ての可否について審理が開始されます(家事事件手続法86条、87条1項、家事事件手続規則56条1項)。
家庭裁判所から相続放棄を認めないという決定(申立却下の決定)を受けた場合、この判断に納得が行かないならば、必ず不服申立てを行いましょう。
この家庭裁判所の決定に対する不服申立ては「即時抗告」と呼ばれ、決定書を受け取った時から2週間以内に、(即時)抗告状を、相続放棄を認めない旨の決定をした家庭裁判所に提出しなければなりません(家事事件手続法86条、87条1項)。
この即時抗告期間が2週間という厳格な期間制限のカウントダウン開始は、申立人(あるいはその代理人)が決定書を受け取った時からであるため、受取が確認できる書留などの郵送方法で届くことが予想されます。
そこで、相続放棄受理の決定書は普通郵便で送られてきたことは、以前、「提出後の手続きについて!(その1)」で説明しましたが、これとは対照的に、相続放棄を認めない旨の決定書は、受取が確認できる簡易書留以上の郵送手段で送られてくることは間違いないでしょう。
※ ただし、相続放棄を認める場合の郵送方法が普通郵便であるのが福岡家庭裁判所のローカルルールである可能性も否定できませんから、
「書留郵便 = 相続放棄が認められなかった」
…と決めつける必要はありません。
そして、相続放棄申立却下の決定書には
●不服申立ての期間が2週間である旨
●(即時)抗告状の提出先
…が記された用紙が同封されているはずです。
そこで、この期間内に間違いなく提出(到達)できるように準備を進めましょう。
2・即時抗告を行う際の注意点について
(1)抗告状の提出期間を厳守する
まず、絶対に気をつけなければならないのは、2週間の期間を厳守するということです。
これを過ぎると通知された決定は原則として確定し、(刑事上罰せられるような他人の行為が介在したような場合など)極めて限られたケース以外では覆すのが不可能な状況に陥ってしまいます(家事事件手続法103条1項、3項、民事訴訟法338条)。
また、日付単位のカウントになりますので、1秒でも遅れて日付をまたぐと抗告状が受理されないという事態も生じ得ます。必ず余裕を持って提出するようにしましょう。
(2)専門家に依頼(相談)をする
詳しくは次回の記事で説明をしますが、相続放棄の申立てが認められなかったということは、「上申書の書き方(総論2)」の記事で説明した相続放棄の要件となる事実の一部について、審査を担当する裁判官が明らかに認められないという判断をしたということになります。
そこで、自分だけで判断するのではなく、必ず専門家に相談し、不安があるならば、依頼をすることを真剣に検討してください。
(3)即時抗告が最終判断となる
結論から言うと、即時抗告に対し、高等裁判所が示した判断に対しては、
1・憲法違反がある場合(家事事件手続法94条)
2・即時抗告を審理した高等裁判所が許可した場合(同法97条)
…を除いて、さらに不服申し立てをすることはできません。
もしかしたら、「三審制が採用されている日本では3回裁判を受けることができるのではなかった?」と思われる人がいるかも知れません。
私も、中学、高校における社会科目で、日本では三審制が採用されており、3段階で裁判を受けることができると教わってきました。
しかし、司法試験の勉強をして知ったことは、当事者が権利として確実に審理してもらえるのは2回だけであるということです。
最高裁判所は日本に1つしかありませんから、不服を持つ当事者すべてに最高裁判所への不服申し立ての権利を認めると、最高裁判所の事務手続きがパンクし、審理が著しく遅延するのが容易に想像つきますね!
そこで、現在は、相続放棄の審理手続のみならず、民事訴訟法においても刑事訴訟法においても、最高裁判所に対する不服申し立てが認められる事件は、かなり厳しく制限されているわけです(民事訴訟法312条、刑事訴訟法405条参照)。
したがって、即時抗告の裁判に臨むに当たっては、最後の勝負になる可能性が極めて高いことは覚悟しておきましょう。
(4)丸投げしたいなら弁護士に依頼する
これまで私が言って来た「専門家」とは、裁判所への提出書類の作成権限を持つ「弁護士」と「司法書士」の先生を意味しています。
弁護士の先生に依頼する場合に、先生が手続きの代理人となることができるため、基本的にはあなたの行為を介在することなく、単独で手続きを代行することができます(家事事件手続法22条1項)。
他方、司法書士の先生の場合、裁判所に対する相続放棄手続という場面においては、書類の作成や提出という権限はありますが、手続行為そのものを代理することはできません。
つまり、即時抗告の手続においては、裁判所に対して説明をする際にも、代理人として出廷することはできません(家事事件手続法22条1項参照)し、書類についてもあなた自身の自署が要求されることもあります。
そこで、即時抗告の段階において司法書士の先生に依頼する場合、あくまでも司法書士の先生とあなたとの共同作業ということになり、すべて先生にお任せするというわけには行きません。
もちろん、司法書士の先生も相続に関する深い知識を持っている人が多いことは知っていますし、不動産登記などでお世話になっている人や金銭面の問題(一般論として司法書士の先生に依頼する方が金額が安いため)で司法書士の先生にお願いしたいと考えている人もいるかと思います。
そこで、司法書士の先生にお願いする場合には、先生と一緒に解決するという意識で臨みましょう。
以上が、相続放棄の申立てが認められなかった場合の不服申し立て制度の概要と注意点です。
次回は、最悪の事態を想定して、私がやろうとしていたこと、それに向けて準備をしておいたことについて説明をしていきたいと思います。