朝、玄関を出るとき、私の足は鉛の重りがついてるかのように重かった、ついでにランドセルもいやに重かった、そんなわけで気分も暗く外に出ると、夏の終わりとはいえ、名前は"夏"が付いているのに、暗く、どんよりとした雲が私の気分を晴らしてくれるはずの青空を覆い隠していた。
「今日、休もうかなぁ・・・・・・」
などと重いながらも日常の一部に組み込まれた"登校"という行動を私の足はしっかりと実行していた。
気付いたらもう校門前に到着していた。私は融通の聞かない足を若干恨みながらも着実に教室へと進んでいった。
あの理科室は幸いにも教室へ行くルート上にはなかった。横目で理科室前を見てみると、なにやか教師様々方が話し合っていた
まずい事になったかもしれない。頭の中でその言葉がリピートされ続けていた。
私はますます重くなった影を引きずりながら教室へとぬるりと入って行った。キョウタは先に学校へと来ていた。向こうもこちらと同じ元気がない。当然である。
私が席に着き、チャイムが鳴った、それから10分近く担任が来なかった。おかしい、これは実にまずい展開になってきた--。
などと思い始めた矢先に廊下を駆けてくる音が聞こえた。あぁ、神様仏様お助けください!。よし怒られる準備は出来た、矢でも鉄砲でも持ってこい!と、思っていると担任が口を開いた。
「今日の理科自習になったんでシクヨロ」
ん?ずいぶんと軽い口調じゃないか。何があったんだ?怒りが一周したのかしら?困惑していると担任は続けて言った。
「なんかね、猫が夜中に理科室を目茶苦茶にしたらしくてね、俺も見たんだけどさ、ありゃ、ひどか・・・・・・」
もう何も聞こえなかった、聞こえるのは心臓の音と、呼吸する音だけであった。
そうだ、キョウタは?そう思い振り返るとキョウタは安堵したような表情となっていた。しかし、どこか少し苦しそうな顔をしているようになった。
しかしそこは小学生、朝の事など頭の片隅に追いやり、昼休みに呑気に学校内鬼ごっこをして遊んでいた、その輪の中にキョウタもいた、しかし、どこか表情は暗かった。
はて?何かあったのかしら?と思いキョウタに表情の固さについて尋ねようとしたら鬼が階段をものすごい速さで駆け上がってきたので私とキョウタは一目散に逃げ出した、尋ねる事なども頭の中から消し飛んでしまった。
そして、学校が終わった帰り道、事態は大きく動いた。
キョウタと私は友人らに別れを告げ、家路についていた。いつもと変わらない帰り道である。私は呑気に空に飛行機が飛んでいるのをみていた。ゴオォォォと音を立てながら飛行機は雲を作っていた。
するとキョウタは私の前にいきなり立ち塞がった。夕焼けを背景にしたキョウタの顔は逆光でよく見えなかった。
私が、どうした?と聞く前に、キョウタは口を開いた。ゆっくりと静かに彼はこう言った。
「僕ん家ね、再来月引っ越すんだ、隣の市とかじゃないよ、遠い所、九州の方。」
え?と聞き返す事も出来なかった。
逆光に照らされたキョウタの顔は泣いているように見えた。いや、泣こうとするのを堪えている、と言うべきか。
私はこのいきなり突き付けられた難問に何も答える事も出来ぬまま、立ち尽くしていた。
夕焼けのステージにいる私達二人の上で飛行機が轟音を響かせながら、来るべき秋を連れて来ていた。
ゴオォォォ、私は轟音の中で、その真実をなんとか理解しようと、必死だった。