幼い頃からサッカーボールを蹴り始め、卓越したドリブル技術と練習の積み重ねで頭角を現したサッカー少年三浦知良。

やがて、そのサッカー少年は本気でプロサッカー選手を目指す事を決意します。

この頃は、当然まだ日本サッカー界に「プロサッカー」という概念が浸透していない頃でした。


15歳という若さで単身ブラジルに渡った少年は、故郷を想い、友達を想い、きっと寂しさや辛さに何度も押し潰されそうになったはずです。


昨日の放送では、ブラジルに渡る渡航費を工面してくれた母親を思い、飛び立った飛行機の機内で涙した事を明かしていました。


サッカーの下手な人の事を「日本人」と揶揄していたブラジルで、悔しさをバネに15歳のサッカー少年は努力に努力を積み重ね、ついにプロサッカー選手になる夢を果たす訳ですが、カズはそれで満足する事なく、サッカー王国ブラジルのプロリーグで活躍し、一躍「カズー」の名を轟かせた後、鳴り物入りで日本に帰国します。

この時カズは「日本をワールド杯に連れて行く」と公言しています。


日本においてのサッカーのプロリーグ「Jリーグ」の開幕は、サッカーファンにとって待望した事であり、カズの存在なくしてはありえませんでした。

誤解を恐れずに言えば、カズの時計に合わせるように開幕したのがJリーグでした。

Jリーグが誕生したと同時に日本は空前のサッカーブームとなり、社会現象を巻き起こす程のスポーツとなりました。

その立役者がカズだった事は言うまでもありません。当時サッカーと言えばカズだったんです。サッカーが好きというよりはカズが好きな日本人が相当いたはずです。

そんな盛り上がりの中で迎えたW杯アメリカ大会の予選。

あの時、多くの人々が日本のW杯出場を夢見て、胸を熱くしながら選手と一緒に一喜一憂しながら日本代表の試合に夢中になっていました。

当時、夜中に母親や妹までも一緒になって、「頑張れ~~!!」だの「カズ、いけーー」だの「あーーー惜しい!!」だの叫びながらテレビに釘付けになっていた事を思い出します。


誰もが雲を掴むような話だと思っていた頃「日本をW杯に連れて行く」と言って帰国したカズは、誰よりも日本代表の重みを感じながら、日の丸を背負う青いユニフォームに袖を通し、日本サッカーの夢、そして自分の夢の実現に向けて、着実に一歩一歩近づいていきました。

選手はもちろん、あの時テレビを見ていた誰もが「イケル!!!」という所まで来ていた訳です。


その夢の実現の一歩手前で起きたのが、あのドーハの悲劇。。。

日本中がため息をつき、日本中が涙したような錯覚さえ感じました。。。


グラウンドに倒れこむカズを始めとした代表選手達、うな垂れ泣き崩れている柱谷選手、そしてベンチで転がり悔しがったゴン中山選手、それぞれ良く覚えていますが、一番印象的だったのは、試合後のカズのコメントです。

「応援ありがとうございました。でも、これでサッカーが終わった訳じゃないんで、明日から又次に向けて頑張りますし、サポーターの皆さんにも是非これからのJリーグを応援して盛り上げて欲しいです。」確か、このような主旨の発言だったと記憶してます。

きっと誰よりも悔しかったはずのカズですが、この時の日本サッカーの環境を誰よりも冷静に分析していた事が分かる発言ですし、この「決して諦めない」姿がカズの真骨頂であり、魅力ですね。僕はこの発言でよりカズが好きになりましたし、四年後のワールド杯予選が楽しみになると同時に、そのカズが四年後のワールド杯予選を勝ち抜き悲願を達成した時の姿を思い浮かべると鳥肌ものでした。


そして、四年経ち再びW杯の舞台への挑戦が始まります。

この時の予選も決して楽なものであはりませんでした。

時として、溢れんばかりの愛情を罵倒に変えてしまうサポーターの批判を甘んじて受けていたのはカズでした。フォワードであり、代表の象徴でもあったカズが、その役目を負ってしまうのは仕方のない事とは言え、悲しい出来事もありました。

監督の更迭劇まで引き起こし、何とか必死の思いで掴んだ日本の「ワールド杯初出場」

これで又日本中が沸き返りました。

そんな中、ワールド杯本選直前に監督が出した答えは非情なものでした。この事について触れ始めると更に長くなりますし、又愚痴みたいになってしまうので敢えて端折りますが、僕は未だにあの時カズと北澤を外さなければいけなかった明確な答えを導き出す事ができません。


幼い頃から玉蹴りをしていたカズ

小中とサッカーに没頭したカズ

故郷を後にして単身ブラジルに乗り込んだカズ

ブラジルでも決して諦める事なくプロ選手になったカズ

帰国後、Jリーグの象徴になったカズ

時代の寵児となり、スポーツや世代の枠を超えた人気者になったカズ

技術と才能に胡坐をかく事無く、弛まぬ努力を続けるカズ

ドーハの悲劇を経験しても、腐ることなく前を向き続けたカズ

・・・・・

「将来は日本のためにサッカーがしたい」

「日本をワールド杯に連れて行く」

「日の丸を背負ってワールド杯に出るために帰ってきた」

「日の丸というのは凄いものですから」

「(海外に)通用しないと言われてるから行くんです」

「ブラジルで日本のサッカーは舐められている。W杯に出て見返したい」

「W杯に出なければ、サッカーを辞める時自分はプロだったと言えないんじゃないか」


そう言い続けたカズにとって、あの事件は何だったんでしょう?


「日本代表としての誇りや魂みたいなものは置いてきました」

そう語った時のカズの表情を忘れる事はできません。。。


沿志奏逢 ~ソウシソウアイ~-かず

突然、カズについて語り始めてしまいましたが、昨日のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀・KING KAZU 走り続ける理由がある」 について書き記しておこうと思ったからです。

冒頭から、番組終了に至るまでカズの、プロサッカー選手としてのこだわりや、サッカーへの熱い想いが溢れていて本当に充実した番組内容でした。

沿志奏逢 ~ソウシソウアイ~-かず
プロ生活25年を超え、年齢は43、本来なら引退していておかしくないキャリア。同時期にプレイしていた選手は、そのほとんどが引退して指導者や解説者の道を歩んでいるし、カズより後の世代の選手達でさえ引退してしまった選手が多い中で、日本サッカー界の魂は、なぜ苦しい格闘を続けるのか・・・

沿志奏逢 ~ソウシソウアイ~-かず
今年の個人の目標を聞かれ「前から変わっていないんですが、90分全試合に出たいですね。」とサラッと答えるカズ。このプロとしてのフル出場へのこだわりは、若い選手にも自分がプロサッカー選手として負けないと信じているから。

沿志奏逢 ~ソウシソウアイ~-かず
どんなに厳しい練習でも力を抜く事なくストイックなまでに自分の身体を苛め抜くのは、怠れば落ちていくと感じているからであり、苦しまなければ喜びはないという哲学を持っているからです。

そしてそれは、何よりも試合で良いプレーをする為なのだと言います。

「良く身体が壊れるとか言われますが、逆に壊してくれって思いますね。」と笑いながら語っていたのも印象に残りました。


もし今のチームから戦力外通告を受けたらという意地悪な質問にも「自分をプロサッカー選手として本当に必要としてくれて、クラブとして意欲的で情熱を持って上を目指しているチームなら二部リーグより下のカテゴリーでも行きます。」と断言していた姿に、改めてカズという人物の偉大さと魅力を痛感させられました。



なぜそこまでして続けるのかという問いには

「僕にはサッカーしかないですから。僕は、サッカーをする事しか知らないし、サッカーで人生を学んできましたんで、そう簡単に辞められるもんじゃないですね。」

・・・もう、言葉は出てきません。


僕のこだわる(こだわってしまう)あの12年前のあの代表落選劇についても、番組中VTRやスタジオトークで何度か触れていました。

スタジオで、あの事について聞かれたカズは、少し間を置き上を見上げた後かみ締めるように話し始めました。

「ドーハの悲劇があって、あそこから四年経ってフランスに辿り着いて、、、

自分にはW杯というものはないのかな。。。と」

(ノω・、)

「残念という気持ちよりも、自分に力がなかったのか、どうしてこうなったのか自分に問いかけましたね。」
続けて
「W杯に出たい気持ちは全く変わっていない。

ただ、現実的ではないかもしれないけども、W杯は今でも自分の夢ですから。あそこに立ちたいというプレイヤーとしての欲望は20年前と変わっていない。」


この12年間、本を読んだり、発言の端々を聞いていても、個人的にどうもシックリこないまま「何となく」自分を納得させてきた僕にとって、昨日の放送でのカズの言葉には涙を堪える事が出来ませんでした。

沿志奏逢 ~ソウシソウアイ~-かず
「あそこがサッカー人生の始まりだったのかもしれませんね。

サッカーの神様が与えたものじゃないですかね。

お前は、ここからどう生きるのかってね。」

沿志奏逢 ~ソウシソウアイ~-かず
「サッカーが全てを教えてくれた」と語るカズにとって、サッカーとはカズそのものであり、栄光も挫折も味わい尽くしたカズのサッカー人生は、三浦知良の人生そのものだと言えます。

サッカーに情熱を燃やす事は、KING KAZUである事に情熱を燃やす事に他ならないのかもしれません。

KING KAZUであり続ける為に、自分に妥協を許さず、ただサッカー小僧でいようとするその誇り高き魂は、ピッチの上に人生の全てがある事を知っているのかもしれません。

沿志奏逢 ~ソウシソウアイ~-かず
カズにとってプロフェッショナルとは

「どんな状況にあっても全力を出しきる、出せる人」


稀代のサッカー小僧、KING KAZUの魂をリアルタイムで目撃出来ている事に感謝します。


じゃあね