全体の約8割は、機能不全家族と言われている。健全な家庭を探すことが難しいと思えるほど、実際には、親から健全な愛情と見守りをされずに育った人が、この世の中には、たくさん存在している。

 

 子ども時代を満たされずに育ち、自己肯定感が低い人は、まず自分の無意識には、強烈な「心の渇き」を持っていて、それが、人やモノを通して、無意識に補填しようとする、心の働きがあることを理解しておいた方が良い。

 

 かくいう私も、自分の家庭環境が異常であることを自覚していない時は、無意識下に強烈な人への依存があり、まるで強力な磁石を持っているように(しかもアンテナが抜群に狂っている。ちなみに自己を取り戻すと正常に戻る)、その心の渇きを満たしてくれる人を追い求めていた。

 

 共依存は、「自己喪失の病」なので、自分自身が心がからっぽ、空洞のような感じで、健全な、本来持ち合わせているはずの「個」「自我」「私らしさ」が休眠している状態である。

 

 人は生きていく上で、「親からの健全な愛情」と、「安心できる居場所」これがあって初めて、自己を健全に形成できる。

 

 形成できない上に、逆に親の枯渇した心の渇きを、子が満たさなければならないような、悲惨な事態になるのは、元を正せば、その親も、強烈な「心の渇き」を抱えているから。

 

 自分の言うことを聞いてくれる、立場の弱いわが子に、無意識にそれを補おうとするのは、ある意味、自然なことともいえる。

(本当は自分自身で、その乾いた心を修復するのが先なのだが、その問題に気づかず放置している人が、まだまだ多いのが現状)

 

 私も今でこそ、過去の自分のことを振り返ると「なんで、あんな人を死ぬほど好きだったのか???」と思わず、首をかしげて自分でも笑ってしまうのだが、全く自分に合わない人、しかも自分を大切にしてくれない人を、わざわざ選んで、全てを投げ出して目隠しして、相手に全身で飛び込んでいくような、とても危険な恋愛だった。

 

 自分がないから、相手に気に入られるように、嫌われないように、相手の思う通りに、盲目的にのめり込む。これは、遅かれ早かれ、必ず破綻する。むしろ、取り返しのつかないほど、大事にならないうちに、早く破綻した方が良い。

 

 回復への道を歩んでいる私でさえ、まだ時々、人へ一体化し無意識に慰め、励まし、承認、察してもらう、などを求める癖が出てくるのだが、それが、時々出てきても、「あ~また出てきちゃったな。でも、大丈夫。今、私は、自分の心の渇きと向き合い、自分自身で満たして言っている途中なのだから」と、自分を励ます。

 

 健全な環境に生きた子は、小さい時から意識することなく、でも少しずつ確実に、親を通して、自分の意思だけで決めた、沢山の経験を通して、そして、それを親が心配せずに、信頼して見守ってくれた環境があったから蓄積でき、健全な大人になり、健全な自己を発揮できている。

 

 何十年と過ごした子ども時代に、満たされなかった「心の渇き」を、大人になった今からやる私は、幼少期からできた健全な子には、到底叶わない。でも、少しずつ、ベイビーステップで進んでいけばいいのだ。

 

 ここで大事なことは、共依存中の癖が出てきても、「自分を責めないこと」自分をずっと何十万回と責めて、自分を痛めつけてきた人達が、いきなり今日から、突然、その癖がなくなる、ということはない。出てきてもいい。ただそこに気づくだけで、少しずつでも確実に、ありのままの私に戻っていっているのだから。

 

 傷ついた、沢山の心の傷。トラウマ、機能不全家族の元で役割を演じて生きた体験。それは、魔法のように綺麗に消し去ることが出来れば、こんなに簡単なことはないけれど、たとえ自分を癒しても、心の傷自体は、なくならない。ただ心の傷をそっと抱きしめて、心の傷と共に、生きていくしかないのである。

 

 でも、今までの、間違った無意識の自動運転を見つめ直し、新しく、健全な人生へとコースを変えることだけはできる。

 

 某芸能人で、壮絶な過去を知って、見方が180度変わった人がいる。その人は、スピード結婚、離婚を繰り返しているけれど、あれだけハードな人生を送った彼女は、自分を取り返すことは、とても大変だ。「心の渇き」は、簡単には埋められない。

 

 だけど、今日も彼女も一生懸命に生きているのだ。強迫観念に悩まされるのも、フラッシュバックがあるのも、あの経験では、当たり前の話である。

 

 親がこの世からいなくなっても、親から受けた、ズタズタにされた体験の恐怖と心身の痛みは、ずっと心の中に残る。よく今まで生きてきたなと、感心してしまう。私ならば、早くに自殺していただろう。彼女には幸せになってほしいと心から思う。

 

 芸能人の父と、多忙な大物歌手を母親に持ち、自分の命を絶ってしまった、あの純粋で才能豊かな彼女も、「心の渇き」を埋められて、人生を再構築できていたならば、とても素晴らしい人生になったはず。

 

 小さいうちから、人間の基本的な、健全な愛情を満たせて、信頼と安らぎに満ちた安心できる居場所の中で、一人でも多くの人が生活していくことができる社会、不健全な家庭でも、その事態を修復していける社会になってほしいと、切に願う。