弟は習うということが好きらしく、
大人になってからもいろんな習い事をしてきた。

中国語を何年か習った後
始めたのはピアノだった。

目標はショパンの「革命」を弾くことだと言う。
「革命」ってあの「革命」!?
私は目を丸くした目
「何のために?」
妹の言葉、弟に聞こえる前に止めたけど。
目あの曲をはてなマーク本気なのはてなマークはてなマーク
私も正直そう思ってしまった。

始めたばかりのピアノの教習本は幼児向けの動物うさぎクッキーのイラスト入り(笑)
ここから「革命」までの道のりの長さを思うと…汗


でも弟はコツコツ練習を続けた。
最初は緊張でピンピンに伸ばした指で、音階もわからない状態で弾いていた。
週に一度のレッスンで習うことを、翌週までに完全にマスターするために、机上にロール式のキーボードを置き、仕事の合間にひたすら指を動かしていた。

その様子を間近で見ていて
最初に無謀だと思ってしまった自分を恥じた。
可能性って
自分が設定さえしなければどこまでも伸びていくんだ。

人生って
何かを成し遂げたことにだけ意味があるんじゃない。
そして何かのためにやらなきゃいけないことなんてない。

チャレンジすること。
それにこそ意味キラキラがあるんだ。
それこそが生きる喜びキラキラなんだ。
弟の姿にそれを教えられた気がした。


弟はメキメキ上達した。
1年経った頃、ピアノの先生に
「来年、発表会で『革命』を弾こう」
と言われた。

発表会目!?
弟は首を横に振ったが
「人の前で弾くという目標があなたを成長させるから」
と先生に言われたらしい。

ピアノの発表会ってかわいい子供達がドレス姿で可愛らしくピアノを弾くイメージ。
でも弟の発表会…ショック!はてなマーク
イメージできなかったけど(笑)


家族の中での大地のような母の存在であろうと決めた私。
そんな弟を応援したい。
弟のチャレンジを見守りたい。
私に何ができる?
それはやはり
ひたすら毎日果物リンゴ食べさせること。
それが弟のパワーになる、きっとキラキラ

私の家族は最高の愛に包まれて
最善の道を歩んでいます。

その思いをこめて照れ



発表会当日。
弟は三曲の曲を弾くことになった。
一曲目はあの「革命」ビックリマーク

そして同じくショパンのノクターン。
「革命弾くなら『愛情物語』』も弾いてよ〜」
これは私がリクエストした曲。

当日、仕事を抜け、母を誘って発表会会場へ行った。


母は私にピアノを習わせていた。
女の子が生まれたら習わせようと決めていたらしい。
でも私は他の習い事が忙しいのを理由に早いうちにピアノをやめてしまった。
母は弾き手のいなくなったピアノを
それでも毎年調律を頼み手入れしていた。

そのことに何となく罪悪感を感じていた私。

だからこそ
弟のピアノを聴かせてあげたかった。
「私が弾いてあげられなくてごめんね」
言えなかった言葉をやっと口にできた。
娘ではないけれど、自分の子がピアノを弾く。
母の何十年来の夢が叶った。

弟の出番は発表会の一番最後だった。
かなり緊張してるんだろうなぁ
顔が強張っているにひひ

力強く「革命」が始まった。
音が耳に入った瞬間
なぜこの曲を弟が弾きたかったのかわかった気がした。

ロシア帝国からの独立を目指した革命が失敗に終わり、故郷のワルシャワが陥落したという報を受けて作曲したと言われるこの曲には、ショパンの怒りが込められているという。

怒りは悲しみのカバー。

弟にもそんな大きな悲しみがあったのかも。
本当なら次男で末っ子の自分は、自由に人生を選択できたはず。
でも兄が会社を解雇になり、
それを引き受けられるのは自分しかいなかった。

小さな会社だけど
働いてくれている人達の生活を預かるという立場になり、
私たち姉二人には相談できないことも
きっとたくさんあったんだろうな。
弟の口数はかなり減った。
弟が一度も結婚しない理由は
ここにあるのかもしれない。

だからこその音の強さなのかな。
男の人ならではの骨太の音だった。
途中何度かつまづいたけど
弟は最後まで「革命」を弾ききった音譜

弟の緊張感やこの曲にこめた思いを
ストレートにぶつけられたようで
私は息ができなかった。


二曲目の「愛情物語」
これは弟が閉じこめた優しさが溢れ出たような柔らかい音色だった。

母が隣で
「素晴らしいねぇ」
と呟いた。

聴いていて涙が出た。

毎日の果物にリンゴ
決して見返りは求めていなかった。
ただただ愛ラブラブだった。
でもその果物にこめた思いが
この音色になって私に還ってきたんだと思えた。

そうか
この人生は
私の「愛情物語」なんだラブ
果物やおにぎらずも
毎日の祈りも
すべてが私の愛情物語のひとコマ。

弟のピアノを聴いていて
確かな自信が私についた。