なみなさんこんにちは!
今回からしばらく、以前ブログに書いていた内容を小分けにして記事にしていきたいと思います。
文字数オーバーになったこともあり、一度に出すよりもこういう形にした方が見やすいかもしれません。
それではよろしくお願いします!!
@業界の現状@
2016年のアクアリウムフェアは12万人もの来場者で大盛況に終わりました。しかしながら、イベント関係者からは「観賞魚もまだいけるのでは」といった負の面がチラリと覗かれる感想が聞こえたそうです。
この言葉からも分かる通り、アクアリウム業界は下火と言われ、次から次へとショップは閉店し、定期月刊誌は三冊から一冊へ。また、特定外来生物の指定からモラルの問題が指摘されています。
+景気とアクアリウム+
さて、ここではまず現在の日本の経済状況を見て行きましょう。現状の日本アクアリウムの問題に直結するのは経済ではなく、モラルの問題だと主張される方もいますが、そのモラルに深く影響するモノの一つが景気である事を再指摘しておきます。
現在、日本はデフレ不況の影響から完全に脱出しているとはいえない状況です。ここでは、分かりやすい経済指標として皆様の実生活に親しい実質賃金指数と観賞魚業界の市場規模のグラフをご紹介します。
細い赤線と赤字の部分は、衰退へと向かう悪しき転換期となった97年を指しています。第三次アクアブームが訪れたのは95年頃とされ、バブルが崩壊した数年後になります。バブル崩壊と聞けば、景気の悪化が頭をよぎるでしょうが、実質賃金指数にあるように上昇しています。当時はそれまでの好景気から精神的な余裕もあったとされているのです。しかしながら、97年の橋本内閣による消費税増税と緊縮財政により、この年を境にしてデフレ化が深刻になり、GDPが伸び悩む事態が続くのです。
水中楽園(著:JIMMY・A・及川、ぶんか社)によれば、1993年頃の客層は24~27歳であり、第二次アクアブーム時は14~16歳が多いと記述されています。この考察については別の機会にしますが、いずれにせよ若者といわれる世代であるのは間違いなく、現在のアクアリウム業界もある程度相応するのであれば、実質賃金の下落は大きなマイナスダメージとなります。
過去のアクアリウムブームから、傾向としてアクアリウムと景気の関係性が示唆されている(参考:https://ameblo.jp/soukundesuyo/entry-12126538549.html)と思いますが、上の図からも見てとれると思います。観賞魚市場規模は2002年までのデータしかないため、予想になりますが、実質賃金指数のグラフでは2001年以降にまたガクっと下がるため、タイムラグを考慮すれば2002年以降、観賞魚市場規模も下がっているのではないでしょうか。そして、2008年以降の更なる不景気に加え、その後には大震災が続くためその影響を考慮すれば半分以下になっているでしょう。
それらを裏付けるように、環境省「平成 28 年 第 2 回絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律あり方検討会議事録」の議事録では「観賞魚市場については 15 年前は 900 億円市場規模だったが、平成 24 年度には 500 億を切る形で推移をしている。」とあります。
また、立川の観賞魚店によれば、「店舗の売り上げは良いときは 500 万円/月ほどあったが、リーマンショック以降、300 万円/月ほどに落ち込んでいる。」という証言もあります。
「楽しい熱帯魚」(平成24年1月号付録)の丸湖商事株式会社へのインタビューでは、第三次アクアブーム時が凄かったのであって、今ぐらいが調度いいと仰っていましたが、不景気と自然災害によるダブルパンチにより、観賞魚業界はどうなったのでしょう。その答えは皆様が見ているそのものです。
+社会背景とアクアリウム業界+
デフレは持続的に物価が下落する現象であり、経済が縮小していきます。モノの値段が下がる事は一見すると素敵ですが、実際は値段が下がるということは、何かが削減されているという意味です。
このデフレが続くことにより「デフレによる物価の下落により企業の収益が下がる→企業は人件費を削減する→人件費が削減されたため、リストラによる失業や賃金の低下が起こり、消費者は購入を控えたり、安価な商品に走る→売れないため企業は安価な商品を提供する→デフレが深刻化する」といった一連の流れがループし、デフレがどんどん深刻化します(デフレスパイラル)。よって、消費者は安価な製品を求めるようになり、企業は収益の確保に突き進むようになるのです。
この状況の中で企業は、客単価の減少を補うため、より多くの客を確保しようとします。もちろん人件費を削減しながらですので、従業員一人当たり多くの客に対応できるように、作業の効率化を進めるための投資(生産性向上)が必要となるのですが、それをせずにブラック化する企業が増えているようです(某有名アクアショップに勤めていた私の友人から聞いた話では、その労働環境は大変厳しいものだったそうです)。
一人当たり多くの客に対応する場合、接客時間が短くなるのは仕方のないことでしょうが、そうなると、質問を抱えるアクアリウム入門者が頭を抱える事態となります。
+消えゆくマニア店+
さて、アクアショップを覗いてみると激安店とマニアックな店がありますが、このデフレ不況時代を考えると激安店が非常に有利な状況です。マニアックなお店は比較的に高価な魚種を扱っており、高価な商品にお金を惜しまないマニア層をターゲットにしています。ですが、マニア層は簡単には増加しないため、デフレによる客単価の減少を補うためには、幅広いマニア層を抱え込まなければいけません。つまりは、マニア店同士のパイの奪い合いに発展しかねない状況に陥ります。ただでさえ、今ではネット通販があるのですから日本全国のマニアにアプローチが可能です。
そうなった場合の最悪な状況は、マニア受けする同じ魚をどのショップも揃え始め、そのショップの個性が無くなることです。そうなると、他店と同じような魚が在庫されるため、結果として最終的には価格競争に発展します。こうなると、ますますマニア店は苦境に立たされ、閉店するお店が増えることでしょう。(※ここでは店舗を構えているお店について触れています)
困ったことに、「よいアクアショップ」と評価されるお店はマニア店に多く、詳しい店員さんがいるのは主にそういったショップです。そういったお店の技術やノウハウが継承されずに消えていくことになります。そうなればもちろん、アクアリウム業界の未来にマイナスなだけでなく、愛好家の楽しみの一つである、知識豊富な店員と交流する機会が失われることになるのです。
とあるマニアショップは、いち早く問屋に向かい、質の高い魚を入手して、お店に並べる努力をされていますが、結局はその努力を値段に結びつける事ができなくなっているそうです。良い魚を仕入れて提供するのだから、高価にしたいところですが、そうすると、ぼったくりという批判を受けてしまうそうです。それだけ、マニアの間でも質より値段の時代になっているのかもしれません。
もちろんですが、真のマニアは質を重視するといった意見を私は受け入れます。ここでいう、マニアはもっと広義の意味で用いています。
ほんの数年前、かつてのアクア界の重鎮が日本のアクアリウム界を盛り上げようと、南米より珍しい面白いお魚を提供する店をオープンしましたが、結局のところ現段階の状況では上手くいかなかったようです。
日本経済に以前のような活気はなく、実質賃金が下がり、アクアリウム市場規模は縮小、震災の危機が叫ばれ、デフレマインドが浸透している中、珍しい高価な大型魚をあの時代のように売りさばくのは困難なのです(もちろんですが、高価な高級魚を専門的に扱っているショップも存在します)。
アクアリウムには様々な問題がありますが、解決に向かっているとは言い難いところがあります。そういった諸問題について業界の動向が注目されるところです。しかしながらこの状況の中で、どれ程の啓蒙活動を業界に求められるのでしょうか。
+おわりに+
低価格はデフレ不況時代において原理的に仕方のないことですが、以上のようにそれを続ければコアで面白いお店が不利になります。さて、そういったお店は資本主義の原理で淘汰されていいものなのでしょうか。そういったお店の店員さんの知識や技能は継承されずに消えていいものなのでしょうか。
インターネットの普及により、質問の回答を得るのが容易になったとはいえ、ショップで働いている熟練したプロの意見を参考にしたいと考える愛好家は多く、またアクアリウム入門者の多くがショップ店員の意見を参考にしてアクアリウムを始めるのも事実です。
匿名の世界の情報よりも、ショップ店員(プロ)の意見を参考にしたいと思うのは普通のことでしょう(店員の回答が正しいかは別ですが)。
こういった状況を打破するためには、デフレ不況から脱却する以外にないでしょう。安価なお店を是正し、通販などの価格低下を引き起こす要因を制限していく、更には消費者マインドを修正するといった方法も有効でしょうが、マクロ的に根本を直さない限り安定的な状況への回復は望めないと思われます。まずは国の借金問題などデタラメであることと、その解決策案のカウンターとしてのハイパーインフレなるものが幻想であることを多くの人が理解することが大事です。
ご意見、ご感想は放送又は掲示板でお願い致します。
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参考:内閣府調査、環境省、日本観賞魚振興事業協同組合HP、新世紀のビッグブラザーへ(三橋氏経済ブログ)、月刊アクアライフ、楽しい熱帯魚、経済と国民 フリードリヒ・リストに学ぶ (著:中野剛志、朝日新書)、現代経済政策(栗林世・谷口洋志著、BUNSHINDO FOUNDATION BOOKS)
参考URL:
厚生労働省・平成 22 年度障害者総合福祉推進事業
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/cyousajigyou/dl/seikabutsu17-3.pdf
デフレとの闘い:金融政策の発展と日本の経験
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/data/ko160414a1.pdf
デフレ下のビジネスモデルからの変換
https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/research/r140701point.pdf


