みなさんこんにちは
皆様は水槽のレイアウトで「日本庭園風レイアウト」を見かけませんか? 日本庭園にありそうなアクセサリーを用いたり、日本庭園で見られそうな石組を再現したりと様々です。しかしながら、日本庭園のどのような方法を参考にされたのか、といった説明はあまり見かけないと思われます。
そこで今記事は、日本庭園を語るうえで避けては通れないとされる『作庭記』から、アクアリウムのレイアウトにつかえそうなポイントを皆様と見ていきたいと思います。
今回、『作庭記』を読むにあたり現代語訳は『庭師が読みとく作庭記(小埜 雅章著)』を参考に、その他の細かな点は主に『作庭記と日本の庭園(白幡 洋三郎編)』を参考にしました。以前読んだ書籍では内容を全く把握できませんでしたが、『庭師が読みとく作庭記(小埜 雅章著)』では図が多様されているため大変明快でした。
それでは皆様よろしくお願いします。
※本記事は『作庭記』や日本庭園そのものを考察するものではありません。また、個人的なアクアリスト向けの抜粋になりますので、全容が気になる方は本をお読みください。
@作庭記とは?@
日本に現存する「最古の作庭秘伝書」といわれる『作庭記』は平安時代に書かれたそうです(著者は橘後綱が有力)。ですので、実用書としては勿論、日本庭園の研究には欠かせることのできない書物とされます。
記述内容に作庭の禁忌に関するものが見られるため、神秘的な性格を持つ書物であると思われてきたところがあるそうです。しかしながら、むしろ技術的、経験合理的な庭園造りの指針として奥深い理論書であると指摘されています。
また、『作庭記』は作庭において、「天然に学ぶことの大切さ」と「自分の趣向を大切にすること」が説かれており、私の頭には自然や日本庭園などを参考に、水景感というオリジナルを組み合わせた水景クリエイターの天野尚さんが浮かびましたが皆様いかがでしょう?我々アクアリストにも参考になる点が多くあるように思えます。
しかしながら、著者は意図的に平仮名と漢字を使い分けて記述するといった巧みな「罠」を仕掛けているため簡単に読解はできません。例えば「つめ石」と記述されていた場合、「爪石」または「詰め石」と漢字を当てはめる事ができ、その漢字の選択によって解釈が変わってしまいます。つまり、文章と口伝えがセットになって初めて意味が理解できるような仕組みになっているのです(そのため、まだまだ解釈には研究の余地があるようです)。
なので、『作庭記』に関する書籍の内容には解釈のバラつきがあるため注意しなければいけません。その点をご理解いただけた上で本記事をお読みください。
@心得@
庭造りの心得として3点書かれているので、少し要点をまとめて紹介します。
・地形や池の形状によって趣向を考えながら、実際の自然風景も参考に理想の自然と現場を熟考しながら石を立てる。
・名人の作品を手本にして、施主の意向も考慮しながらも、自分なりの美的追求を加味して造りあげる。
・名所に思いを巡らせて、優れた点を自分なりに取り込み、おおよその骨格はその名所に拠りながらも、それを充分に消化吸収した上で石立てをしなければいけない。
自然から学ぶことの大切さを説かれていますが、以降に「人が立てた石は、自然に勝ることはない」と記述されていることから、ただの自然模倣を戒めていることが窺えます。
ですので、個人のオリジナル性の大切さを説かれているのは当然でしょう。この自然に学ぶ姿勢と主体的な造形美学を『作庭記』は説いていたのです。
@池庭造りに見る参考例@
池の石は、池底からしっかりと支えられている「つめ石」を土台にして高く石立てをする、と記述されています。石をしっかりと支えるための他、この様は水が干上がった時でもおもしろいそうなので、この石の置き方は水槽レイアウトでも楽しむ事ができるのではないでしょうか。ちなみに、つめ石というのは、単に石と石の隙間を埋めるための「詰め石」ではなく、水底深くに根が埋まった爪先のようにほんの少しだけ顔を出している石、つまり「爪石」だそうです。
また、「離れ石は荒礒に配置するもの」とあります。解説によれば離れ石とは、もとは一つであった石が波の浸食によって分断され別の石として存在しているように見える石だそうなのです。そのため、延長線上を意識して据える必要があります。
この離れ石は、流れのある大きな川でも見られるため、アクアリウム的には荒礒(波の荒い海岸などを指す)を特別意識せずレイアウトへ応用できるのではないかと思います。
山里の風情あるものにする場合は「高い山を庇近くに造り、頂上から裾の方に向けて、石を少しばかり立て下していく」との記述があります。この石は、建築のために山を崩し平地を広げた際に偶然に掘り出された地中深く続く「床舐めの石」であるため掘り除けず残されたものになります。
床舐めの石は、末広がりの石が土の中に深く埋まっている状態を指しており、石の根もとが収縮していないためどこまで続くのか見て予測ができません。レイアウトの視点では、大きな石が地中深く埋まっているように見えるため安定している印象与えるでしょう。
逆に、石の根もとが収縮しているように見える配置をすれば、どの程度の規模の石であるか予測ができるため小さい石である印象を与えると思われます。その場合、深く埋まっているように見えないため不安定に見えるでしょうからレイアウトの使いどころが難しいのではないでしょうか。
@石立ての種類@
石立てには様々な種類があるとし、「大海の姿、大河の姿、山河の姿、沼地の姿、葦手の姿」が記述されています。以下でそれぞれの特徴を要点をまとめて紹介したいと思います。
大海の姿:荒礒の情景に石立てをします。荒礒は、岸辺に波が当たり前方だけが中途半端に洗い出されている石を置き、沖の方へ立ち上がって波間から顔が見えるような石をたくさん立て続け、岸近くにあるそれらの石とは離れて波間から顔をだしている石が多少あるような情景を指すようです。これらの石は、波の力により削られ洗いだされた形状をしています。また、所々に洲崎や白砂の浜が広がり松などが生えているのが良いそうです。
大河の姿:石立ての際は、まず水の曲がる地点に「おも石」で下張りがあるものを一つ立てて、その石が跨った状態になるのに必要な分、左右に最小限の石を添えておく、とあります。一般的におも石は「主石」と解釈されるようです。ですが、小埜 雅章氏は作庭記に人体的比喩が多い事と実戦用の現場の書である点から、抽象的な「主」よりも「面石」と当てはめ、面として広がりのある形状を表現していると解説されています。大河は石の殆どない平坦な大地を流れる河であり、大きな石に偶然突きあたることで流れの方向を変えるため、「面石」のように広い面をもつ大きな石が選ばれるのです。
そして、石が跨った状態とは三尊石組のように両サイドに石を置いて三角形を作るような状態を指すようです。最小限である理由は大河の性質上、「面石」以外の石はあまりない方がいいのですが、「面石」一石だけでは造形的に完結が不可能であるため最低限の添え石は仕方ないのだそうです。
続いて、曲がり角の石に当たった水は、そこから折れたりあるいは歪んだりして強く流れていくため、その流れてゆく末を想像しながら石を立てる、と記述されています。そして、それ以降はこのような考えのもとに、順次趣向を変えながら立て下していくそうです。また、水が左右にせばまって細く落ち下る所は流れ速いため、白洲は幅が少し広くなって水が停滞する所に配置する、とあります。
山河の姿:石をたくさん立て下していき、あちこちに点々と流れに沿う、伝い石があるのがよいそうです。また、水の流れの中に石を立てて、左右に水を分けた場合は必ずその左右の水底際に掘り沈めた石を据えなければなりません。
沼地の姿:石を立てることは稀で、あちこちの入り江に水辺の植物を植えて、これといった島も設けず、水の表面がはてしなく広がっているように見せます。そして、水位面を上昇させ岸が沈み込んでいるようにすると沼のように見えます。
葦手の姿:山なども高くなく、野筋の裾や、池の水際などに石を所々に立てます。そして、そのかたわらに、コザサ、ヤブラン類のような草物をあしらって、樹木ではしなやかな木を選んで植えるとよいそうです。そして、天端全体が平らな平天石を、品文字の三角状配置などにして、あちこちに立て、それらの石の各々に取りすがり取りすがりしながら、それほど高くもなく繁雑に繋がることもない草花などを植えるとよい、とあります。
@瀧石@
アクアテラリウムや白砂を使用した瀧など、瀧レイアウトを楽しまれるアクアリストを見かけます。『作庭記』に記述される「瀧」の造り方は、庭園仕様であるため趣味レベルで参考にするのは難しいかもしれません。ですが、少しばかり紹介したいと思います。
瀧を立てる場合は、まず水を落とす石の選定が重要であると記述されています。その石は加工されたような滑らかなものでは面白みがないため、癖のある石を用いた方がいいようです。
とはいえ、左右に脇石を寄せ立てた時に、それら石と取り合いがうまくいくものでないといけません。
瀧の奥の方は、平たい石を少々立て連ねるといいようですが、水の進路左右に連続して整然と並べるのはよくないそうです。解説によると、水を流すための護岸として平たい石が便利ですが、並べがちになる事から単調となって面白みがなくなってしまうからだそうです。なので、水の流れを考慮した上で乱雑に石を立てることも必要になってくるでしょう。
また、水の中に後ろの背だけが水面から突き出ている石を入れると、水の流れを演出できます。
瀧の下方は、水の流れを脇へ押しやるため、脇石より半分くらい小さな避け石を据えます。また、その際には避け石の左右に跨るように石を添えて立てておきます。
瀧の手前あたりは広くさせ、水を左右に分け流す水面から顔を出した石が多くあると格別趣があるそうです。
瀧の落ち方には、様々あり、人の好みしだいだそうです。離れた水の落ち方が好みなら、画角が鋭く横一文字になっている石を少し手前に傾けて据えます。伝っているような落ち方でしたら、表面の稜角が、少しつぶれている石をほんの少し仰け反らせて立てます。
瀧の水落の幅は、瀧の高さ低さに決まるものではありません。これは『作庭記』の著者が数多くの瀧を観察して確かめたようです。とはいえ、低い瀧で幅が広いのは何かと難点があるため、気をつけなくてはいけません。
@地形に応じた石の立て方@
今記事も終わりに近づいてきました。ここでは『作庭記』に記述される、斜面や山の裾野などの地形によって見られる石の置き方を紹介します。石の置き方はレイアウトの参考になる点が多いと思います。
急な崖の斜面に立つ石は屏風を立てかけたような姿をしているようです。それは、筋違いに斜めに交差させて戸を寄せかけた姿、あるいは石段と石段の間をつないで連結させたような形とも記述されます。
なだらかな斜面に立つ石は、群れ犬が臥せているような姿でしたり、イノシシの群れが走り散らばっているような姿、子牛が母牛のもとで遊び興じている姿であったりするようです。
山を受け止める土留めの石は、山を切り立てた急な所では、石をたくさん立てる必要があります。
石を立てる場合は、石には勢いといものがあるそうで、逃げる勢いの石が1~2個ある場合はそれを追いかける勢いの石が7~8個必要になります。それはまるで、子とろ子とろ(一列に繋がり先頭の人が鬼から最後尾の子を守る遊び)のようなのだそうです。
そして、立て石には「切り重ね、冠の形、机形、桶据え」というのがあり、
また、石を立てるには「逃げる石があれば、それを追う石」があり、
「傾いている石があればそれを支える石」、「踏みつけて押さえる石があれば、それを受け止める石」、「仰むいている石があれば、俯いている石」、「立っている石があれば、臥せている石」などがあります。
ちなみに、石は力強く立てねばならぬと記述されています。つまりは、石の足元を地中深く埋めるということだそうです。ただし、添え石を寄り添えなければ弱く見えてしまいます。逆に、寄り添えていれば浅く埋めていても強く見えるものなのだそうです。
@おわりに@
今回の記事は、日本庭園の歴史または思想に深く関わる『作庭記』を取り上げましたがいかがでしたでしょうか。本記事は『作庭記』を考察するものではありませんので、そういったものに関心のある方にしてみれば面白みに欠けていたと思います。ですが、作庭の実践書として有力な内容であるという点は伝わったのではないでしょうか。
庭師ではない素人の私にとっては現代語訳されていても専門用語の理解が追いつかず、読み進めるのに大変苦労しました。実際に、今でも大まかにしか理解できていない点が多くあります。しかしながら、そこが興味深く面白い点であるのでしょう。
庭造り・・・水槽レイアウトも、生体の育成に比肩するほど奥深く面白いアクアリウムのジャンルであること再認識しました。
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