数日も経たないうちに、また大勢の、十や二十は下らない数の子ども達が赤の魔女――アイリーンが支配するこの血塗られた魔の城に連れてこられた。大半は男子だが、女子も少なからず混じっている。年齢層は全員子供にしては幅広く、6歳から15歳といったところか。無論、子供の選択基準など凡人に到底理解できるわけもなく、まさに神、ではなく魔女のみぞ知る。
先日まではルークとミリア、あと壊れた数人と血で染まった真っ赤な花だけだった極寒の地獄も、今では阿鼻叫喚によって塗りたくられた違った意味での地獄と化していた。そこには、恐い、怖い、コワイという恐怖しか存在していない。涙を流す者、憤る者、諦観する者、皆等しく魔女に畏れを抱いている。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
絶対とも言うべき死が眼前へと突きつけられた者達だからこそ激しく生を渇望する。生きながらも、皆何かにつけては面倒だの厄介だなどと口にするが、それも生きているからこそ得られるもの。本当に面倒で厄介ならば、さっさとその命を魔女に捧げればいい。
それができないというのであれば、理由はただ一つ。
皆生きていたいのだ。
皆生きて、空気を、自然を、人を、身体で感じ、思い、一歩一歩己の道を歩んでいきたいのだ。
だが、その歩みを確実に止めさせるモノがここにはいる。
それは絶対不変の理。
自分達人間が、己が生きるために家畜を殺すのと同じように。
魔女は己が欲望のために人間を殺す。
戯れ、犯し、壊し、最後には殺す。
しかし、狂気の沙汰としか思えない蛮行も魔女にとっては児戯にも等しき事なのだろう。そう想像することしか凡人には適わないのだ。それほど、人間と魔女の思考はかけ離れていると言っていい。だから、思い、考えることしかできない。魔女がもっと人間に近ければ、抗いようもあるのだが、要するにそこが魔女たる所以というわけか。人間とは相容れない、異常な存在。
だから、皆恐怖する。
理解できないから。
今はまだ叫んでいられるほどの気力や体力が残っているが、今この時の選択としては、ルークの見解からしたら間違いの部類に入る。
それはなぜか。
答えは体力と気力の消費。
叫ぶとは存外、力の要る行動なのだ。自分の体力と気力をふり絞り、外界へと内なる声を、思いを響かせるもの。しかし,その体力と気力が底をついた時、心身ともに盾となるものが喪失し、魔女の恐怖に加えて、この異様な空間の歪みに無防備な自分をさらすことに他ならない。そうなっては、もう後戻りはできない。当初はまだ存在していたであろう自己と呼ばれるものが根こそぎ奪われ、あとはもう魔女の人形となる抜け殻しか残されない。
無論、ルークとミリアとて例外ではない。最早、ルークとミリアはお互いを信じ合い、鼓舞し合うことでしか自己を保っていられないほど崖っぷちの状態なのだった。
――だから、ルークとミリアは叫んだ。
彼らのために。
「みんな落ち着くんだ!」
「落ち着いて!」
しかし、二人という少数に対して、向こうは数十人にも及ぶ多数。ルークとミリアの叫びはいとも簡単に掻き消えてしまう。多勢に無勢とはまさにこのことだった。濃くて深い恐怖の色が完全に向こうの子供達を染め上げていたのだ。
それでも叫ぶ。止まれ! と。
君達をみすみす魔女の手に陥らせたりなんかさせない。
しかし、このままではルークとミリアもこの強大な負の感情に支配されてしまう――と思われた矢先。
ガシャンと金属質な音が牢獄に一瞬で広まった。皆、魔女が来たと思い、即座に動から静へと切り替わる。ルークとミリアが精一杯叫んだにも関わらず、止まらなかった皆の負の感情は魔女の幻影に呆気なく屈してしまっていた。
これは相当魔女の恐怖による根が深いと、ルークとミリアは思わざるを得なかった。
すなわち、ルークとミリアでは皆の勇気を、希望を再び喚起させることが絶望的であることを意味している。
とはいうものの、先程の金属音は、互いの心中で魔女の幻影と断定したように、魔女の降臨を示したものではない。
魔女はそのような不粋な音を響かせつつ現れたりはしない。そもそも、超越した残虐性を備える魔女自ら不潔と評す、見るに耐えないコキュートスに、魔女本人が実際に来ること自体滅多にない。もしも、頻繁に現れたりなどしたら、ルークとミリアを含めた皆のような囚われの身としては心臓が数十個あってもまだ足りない。
では、いったい誰が――。ルークとミリアの疑問に答えるように、友人とおぼしき人物に肩を借りた、体調の悪そうな少年が名乗りを上げた。
「……僕が鳴らした」
青い顔をした十歳に届くかどうかの少年は、ルークとミリアの方へ向かうと同時に、刻一刻と死へ向かっていた。
それもそのはず。
少年の衣服の脇腹付近には何か鋭いものが貫通したかのような大穴が空いており、見え隠れする傷口は完全に塞がっておらず、一歩踏み出すたびに血が噴き出している。
「……レスター」
誰かが呟いた。
どうやら少年の名前はレスターと言うらしい。
皆が知らず知らずのうちにレスターに道を開ける。
ルークとミリアはレスターがさながら貴族のように見えた。彼はおそらく良家の出なのだろう。その証拠にどこか気品の良さが窺えた。
人の手を借りてルークとミリアの近くに腰を下ろしたレスターは、一息ついてから話し出した。
よかったら、クリックをお願いします(*^_^*)↓

にほんブログ村
先日まではルークとミリア、あと壊れた数人と血で染まった真っ赤な花だけだった極寒の地獄も、今では阿鼻叫喚によって塗りたくられた違った意味での地獄と化していた。そこには、恐い、怖い、コワイという恐怖しか存在していない。涙を流す者、憤る者、諦観する者、皆等しく魔女に畏れを抱いている。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
絶対とも言うべき死が眼前へと突きつけられた者達だからこそ激しく生を渇望する。生きながらも、皆何かにつけては面倒だの厄介だなどと口にするが、それも生きているからこそ得られるもの。本当に面倒で厄介ならば、さっさとその命を魔女に捧げればいい。
それができないというのであれば、理由はただ一つ。
皆生きていたいのだ。
皆生きて、空気を、自然を、人を、身体で感じ、思い、一歩一歩己の道を歩んでいきたいのだ。
だが、その歩みを確実に止めさせるモノがここにはいる。
それは絶対不変の理。
自分達人間が、己が生きるために家畜を殺すのと同じように。
魔女は己が欲望のために人間を殺す。
戯れ、犯し、壊し、最後には殺す。
しかし、狂気の沙汰としか思えない蛮行も魔女にとっては児戯にも等しき事なのだろう。そう想像することしか凡人には適わないのだ。それほど、人間と魔女の思考はかけ離れていると言っていい。だから、思い、考えることしかできない。魔女がもっと人間に近ければ、抗いようもあるのだが、要するにそこが魔女たる所以というわけか。人間とは相容れない、異常な存在。
だから、皆恐怖する。
理解できないから。
今はまだ叫んでいられるほどの気力や体力が残っているが、今この時の選択としては、ルークの見解からしたら間違いの部類に入る。
それはなぜか。
答えは体力と気力の消費。
叫ぶとは存外、力の要る行動なのだ。自分の体力と気力をふり絞り、外界へと内なる声を、思いを響かせるもの。しかし,その体力と気力が底をついた時、心身ともに盾となるものが喪失し、魔女の恐怖に加えて、この異様な空間の歪みに無防備な自分をさらすことに他ならない。そうなっては、もう後戻りはできない。当初はまだ存在していたであろう自己と呼ばれるものが根こそぎ奪われ、あとはもう魔女の人形となる抜け殻しか残されない。
無論、ルークとミリアとて例外ではない。最早、ルークとミリアはお互いを信じ合い、鼓舞し合うことでしか自己を保っていられないほど崖っぷちの状態なのだった。
――だから、ルークとミリアは叫んだ。
彼らのために。
「みんな落ち着くんだ!」
「落ち着いて!」
しかし、二人という少数に対して、向こうは数十人にも及ぶ多数。ルークとミリアの叫びはいとも簡単に掻き消えてしまう。多勢に無勢とはまさにこのことだった。濃くて深い恐怖の色が完全に向こうの子供達を染め上げていたのだ。
それでも叫ぶ。止まれ! と。
君達をみすみす魔女の手に陥らせたりなんかさせない。
しかし、このままではルークとミリアもこの強大な負の感情に支配されてしまう――と思われた矢先。
ガシャンと金属質な音が牢獄に一瞬で広まった。皆、魔女が来たと思い、即座に動から静へと切り替わる。ルークとミリアが精一杯叫んだにも関わらず、止まらなかった皆の負の感情は魔女の幻影に呆気なく屈してしまっていた。
これは相当魔女の恐怖による根が深いと、ルークとミリアは思わざるを得なかった。
すなわち、ルークとミリアでは皆の勇気を、希望を再び喚起させることが絶望的であることを意味している。
とはいうものの、先程の金属音は、互いの心中で魔女の幻影と断定したように、魔女の降臨を示したものではない。
魔女はそのような不粋な音を響かせつつ現れたりはしない。そもそも、超越した残虐性を備える魔女自ら不潔と評す、見るに耐えないコキュートスに、魔女本人が実際に来ること自体滅多にない。もしも、頻繁に現れたりなどしたら、ルークとミリアを含めた皆のような囚われの身としては心臓が数十個あってもまだ足りない。
では、いったい誰が――。ルークとミリアの疑問に答えるように、友人とおぼしき人物に肩を借りた、体調の悪そうな少年が名乗りを上げた。
「……僕が鳴らした」
青い顔をした十歳に届くかどうかの少年は、ルークとミリアの方へ向かうと同時に、刻一刻と死へ向かっていた。
それもそのはず。
少年の衣服の脇腹付近には何か鋭いものが貫通したかのような大穴が空いており、見え隠れする傷口は完全に塞がっておらず、一歩踏み出すたびに血が噴き出している。
「……レスター」
誰かが呟いた。
どうやら少年の名前はレスターと言うらしい。
皆が知らず知らずのうちにレスターに道を開ける。
ルークとミリアはレスターがさながら貴族のように見えた。彼はおそらく良家の出なのだろう。その証拠にどこか気品の良さが窺えた。
人の手を借りてルークとミリアの近くに腰を下ろしたレスターは、一息ついてから話し出した。
よかったら、クリックをお願いします(*^_^*)↓

にほんブログ村


