1  突然の逮捕
A君は普通の大学生。ある日、自宅の捜索を受けて、そのまま、逮捕されてしまった。
少し前に別れた彼女から被害届が出されたのだ。
容疑は、2人でホテルに泊まった間に彼女がA君から監禁されたことらしい。
確かに、2人でホテルに泊まり、その間、2人で口ケンカはしたし、何故か110番通報を受けた警察官が2人が宿泊していた部屋にやってくるアクシデントもあった。
しかし、A君には彼女に手荒なことをした覚えはない。
逮捕された後、A君は、警察官らに、自分の記憶しているとおりを話したが、釈放されることなく、さらに10日間の勾留が裁判所で決定された。

2 両親の心配
焦ったのはA君の両親だった。A君は日本生まれの日本育ちなものの、日本国籍がないため、起訴されて前科がつくようなこととなると、在留資格がどうなるかわからない。最悪、日本から退去処分を受けるかもしれない。
A君の両親は、知人のアドバイスを受け、このよな場合には、勾留中に被害者と示談を成立させて起訴を猶予してもらうほかないと考えた。そこで、示談交渉をしてもらう目的で、弁護士に弁護活動を依頼することとした。

3  弁護士の悩み
しかし、刑事事件で被害者と示談をするということは、A君が容疑をかけられた犯罪行為をやったと認めることに他ならない。
起訴を回避するには、A君に自白させて被害者との示談交渉に入るべきか、それとも、A君の言う通り、容疑を否認し続けて、嫌疑不十分での不起訴処分を狙うべきか、A君の両親から相談を受けた弁護士は、大いに悩んだ。弁護方針は、事件処理に関する自分の見込み判断に頼るほかなかった。 
まずは、A君と接見し、A君から直に話を聞くこととした。A君と話し、弁護士には、A君の話に不自然なところはなく、何よりA君が女性に乱暴に及ぶようには思えなかった。
さらに、A君からは、事件後も、2人だけが共有するSNSアカウントに彼女が積極的に投稿をあげているとの情報を得ることもできた。A君から教えられたパスワードでその投稿にアクセスし、投稿内容を確認し、その時点で、容疑を否認する方向ての方針を決断した。

4  弁護方針
ただ、起訴の可能性には不安が残るので、弁護士は、事件後の彼女の投稿に関する資料を担当検察官に提出すると共に、A君の在留資格をめぐる特殊事情を説明し、状況によっては被害者である彼女側との示談交渉の準備があることを伝えておいた。
検察官は、勾留満了日までは起訴に関する処分方針を口にすることはないのだけれど、示談の必要については示唆を与えるとの限度でお願いをすることはできた。
後は、A君が不安になってウソの自白をしないようサポートに徹することとした。A君は否認を続け、勾留期間は10日間延長されることとなったけれど、延長終盤には示談交渉に入る必要はないと検察官からの方針見込を知らせてもらうことができた。

5  釈放
そして、勾留満了日、A君は、嫌疑不十分で不起訴処分となり、無事に釈放された。方針に見誤りはないとは思っていたものの、それでも、結論が出るまでは不安だった。弱気になって示談交渉をしていたら、とんでもないことになっていたと胸を撫で下ろした。
身柄が拘束されている刑事事件は、本当にしんどい。