3.デジタルコンテンツでの実際の契約は
ここまで、デジタルコンテンツの2つの販売モデルと契約について説明したが、実際にはどのようになっているのであろうか。
電子書籍はいまビジネスが始まったばかりなので、同じ再販品であるCDから非再販品となった音楽のデジタルダウンロード販売を例に説明しよう。
音楽配信で世界で圧倒的なシェアをもつA社の場合、レーベル(出版においては出版社に相当する)が価格帯を決定する。配信サイトが定めるTierという価格帯があり、たとえばTier1はアメリカ合衆国では0.99ドル、日本では150円相当、のように地域とその地域通貨での販売価格がテーブル(表)になっている。
この表は為替レートその他の事情により定期的に改定される。
さて、レーベルはこのTierをWEBの管理画面にログインし、自分の販売する曲あるいはそのセットであるアルバム価格を指定することができる。しかし、曲の売れ行きや為替レート、その他の事情で配信サイトによって、Tier1がTier2になるといった小売価格のステージそのものが変えられることもある。
これをみると、レーベルはある程度自身の希望を販売店であるダウンロードサイトに伝えることができるが、次のような理由でまったく指値ではないことがわかる。
1)Tierとよばれる価格帯を選択するだけで、Tierにない価格帯を選択できない。
2)Tierの配信地域と価格とのセットとなるテーブルはダウンロードサイトであるA社のみが決定する。
3)A社がTierそのものをレーベルに断りなく変更することもある。
こう考えると単純なエージェンシーモデルでもホールセールモデルともいえないといえるだろう。
先にも述べたように、音楽もCDは再販品である一方、ダウンロード販売品は再販品ではなく、この点においては全く書籍と同じであるといっていいだろう。
ここ数年黒船と騒がれているAmazonは、USではオンライン上で紙の書籍を他の書店よりも安い最安値で提供し、それによって集客効果を高めている。
よって、出版社にとっては頑張って作成した書籍が販売と同時に思ってもみない安値で売られるのではないかと思って戦々恐々としているところもあるかもしれない。
また、USでは一部の力のある出版社にたいしてエージェンシーモデルをAmazonが採用したことで、ホールセールモデルが悪くてエージェンシーモデルが有利と思われるように感じることもある。しかし、実際は、そのような単純な話ではない。
実際に成熟したデジタルコンテンツの先達である音楽業界では、エージェンシーモデルは上のように運用されているのである。
私は実務家であっても法律家ではないが、これは法律上の解釈から見るとエージェンシーと単純に言えないのではないだろうか。
私が思うにまず、出版社は、電子書籍そのものが再販制度で守られた出版社の「わがまま」を許さなさい「公正な競争」を強いられるという当然の意識を持つことである。
そして、エージェンシーモデルが有利である、といった単純化した2項対立でなく、大切なのは、契約書に電子書籍時代に対応した内容を盛り込んでいくことである。
具体例を1つあげると、、エージェンシー契約だろうが、ホールセール契約だろうが、契約において著者印税は「ダウンロードサイトからの再収入金額に対する○○%」と定めるのがよい。音楽業界では契約書の書き方はこれが慣例になっていると思う。これはダウンロードサイトとレーベル(出版社)との間に何層かのアグリゲータが存在し、その中の1社でも契約変更があれば、最終的な入金金額と小売価格×料率に不利益を被る差額が発生する可能性があるからである。実際に書協の契約のひながたは、「乙(出版社を指す)への入金額に対してその」となっている。
以上から、これまで述べてきたように、ホールセラー契約が不利であり、エージェンシー契約は危ない、有利という単純な問題ではない。先日お話を聞いた弁護士さんによると「出版社が価格を拘束しないこと」が最大のポイントなのである。しごくもっともだと思う。
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