「○○ちゃん、今日はずいぶんと気合はいっているね」
「えっ?」
私はふいに桜澤先輩に声をかけられ、徐に振り返った
「明日から例の4日間のお休みにはいるんだもんね
そんな大きなバッグを持って旅行にでも行くの?」
今日は金曜日
そして明日からは前に部長から言われた通り、私は4日間のお休みにはいる
昨日の木曜日
「金曜日の仕事が終わってからまっすぐ出発しますので、金曜日は旅行する段取りで用意して会社に来て下さい」
「あの・・・行先は・・・」
「ひみつ、です」
涼真さんとそんな会話を昨日の帰りがけに言われ、言われた通り私は2,3日分の旅行の準備をして会社に来た
行き先も、滞在日時も教えてくれない涼真さん
けれど涼真さんの口から“旅行”という言葉がでたことに、私は不安よりも嬉しさのほうが大きかった
(涼真さんと旅行なんて、付き合ってからは初めてのこと、このお休みはずっと離れずに一緒にいれるんだ)
そして、定時を知らせるチャイムが社内に鳴り響き、帰社する人が目立ち始めてきた
(私もそろそろ仕事を終わらせないと)
そう思い、今抱えている仕事にラストスパートをかけた
そのとき、横から白いメモ用紙が差し出されたのが私の視界に入った
(うん?)
そっとそのメモが差し出された方をみると、柔らかい表情で微かに笑う涼真さんと目があったが
すぐに涼真さんは自分のパソコンにと視線を戻した
私は涼真さんからのメモをそっと見ると
―私は先に会社を出ますので、6:30に最寄りの駅改札口まで くれぐれも時間厳守で―
(今が5:30・・・
えっ?あと一時間もない!?)
私は慌てて目の前にある仕事に取り掛かりはじめた
「・・・課長・・お待たせしました・・・」
私は息を切らしながら、駅の改札口に立つ涼真さんの元へと駆け付けた
「意外と速かったですね、貴方のことだからもっと時間がかかると思っていました」
「実は、半分も終わらないで途中投げだしてきちゃいました」
そんなことを恐る恐る上司である涼真さんに言ってみる
「・・・たまにはそんな日があってもいいでしょう」
いつもなら、そんなことを言う私に注意をするのに
今日の涼真さんは大目に見てくれる
きっと私たちが、すでに仕事モードからプライベートに切り替わっているおかげ
「では、行きましょうか」
「はい」
私たちはそう言って、片手には旅行バッグ
そしてもう片方の手には
「はぐれないで、私に付いてきてくださいね」
しっかりとお互いの手が繋がれていた
「○○が会社から出るとき、皆になにか言われませんでしたか」
「はい・・・涼真さんも旅行バッグを持って会社を出られたから、もしかして一緒に旅行に行くの?って桜澤先輩に勘ぐられました」
「ふっ・・・彼はああ見えて、感が鋭いですからね」
「私はこのまま実家に帰ると言ってその場を凌いだのですが」
「それは賢明な答えですね」
さっきからの移動中の涼真さんとの会話は、こんな雑談で
肝心の今回の旅行の行き先をまだ聞いていなかった
「あの・・・涼真さん・・・」
「あっ、○○見えてきましたよ」
そして私が行き先を聞こうとすると、こうやって話をずらされてしまう
でも今回はその行き先のヒントになりそうなものが見えてきたらしい
私は涼真さんに言われた方向を見るとそこには
「・・・空港?」
「これは○○のチケットになります、すでに搭乗手続きは済んでいますので」
「はい・・ありがとうございます」
私は涼真さんからチケットを受け取る
(飛行機に乗ってどこまで行くつもりなんだろう・・・きっと近場のどこかだろうって予想していたのに)
私は案内を示す電光掲示板に目をやった
(この便名だと・・・えっ・・・)
―四国?―
「・・・すみません、ここまでお願いします」
「はい、畏まりました」
私たちは飛行機から降りると、空港入り口に待機していたタクシーに乗り込んだ
涼真さんは行き先を綴ったメモをドライバーに渡すと、タクシーは目的地場所へと勢いよく発進させた
「・・・・」
四国に着いてからというものの、私はもう涼真さんに問うことはしなかった
きっと聞いたところでまた話がはぐらかされることも予想は出来たし
私もこうなったら何も聞かず、黙ってとことん涼真さんに付いて行こうと決めた
でも・・・
―なぜ、四国?―
(私を四国に連れてきて、どういうつもりなんだろう・・・
もしかして四国の名物で、スィートフェスタが開催されているとか?
私と涼真さんの四国の共通点って・・・)
考えれば考えるほど、私の頭の中は迷宮入りだった
「○○、着きましたよ」
「ここは・・・」
私たちがタクシーを降りて、視界にはいったのは、外観がとても豪華な造りの大きく、高い建物だった
「・・・ホテル?」
もうすっかり日も沈み、辺りが暗いなかでも、灯りに照らされたその建物は大きなシティホテルだということがわかる
「私はチェックインをしてきますので、○○はここで待っていてください」
そう言い残し、涼真さんはカウンターに行ってしまい、私は一人この広いロビーに残されてしまった
天井まで続く吹き抜け、上階に繋がるエスカレータが四方の至るところにあり、おおきなガラス窓からは庭園が望めるロビー、そして、この人の多さ
(このホテル・・・たしか・・・)
「お待たせしました、行きましょう」
涼真さんが先に部屋に向かい歩き始めると、私も急いでその後を追った
エレベーターに乗り込み、私たちが今晩休む部屋の階数で降りる
(やっぱり、ここ・・・前に一度、来たことがある)
私は気付いた
この前に一度歩いたことがある廊下、泊った部屋の階数は違うけれども、だいたいのホテルは同じ構造をしているため、それを思い出すことに手助けをしてくれた
―ガチャッ
涼真さんがカードキーを差し込み、扉が開いたことを示すランプが点灯する
「どうぞ」
私は涼真さんにエスコートされ、先に部屋の中へと足を踏み入れる
部屋のなかに進み、ある程度辺りを見回し、あることを確認した私は意を決して涼真さんのほうへと振り向いた
「涼真さ・・・」
「前回と違うのは、ベッドがシングルではなく、ダブルになったこと、そして
私と貴方が、上司と部下ではなく、恋人同士になれたことです」
私と声が重なった涼真さんは、私に柔らかな表情で言った
そう、このホテルは私と涼真さんがまだ付き合う前
子ども服の製造を発表会に間に合わせるために、急きょ製造工場があるこの四国に飛んだ
そして、その夜に泊るために久留巳くんが手配してくれたホテルだった
(でも、涼真さんどうしてこのホテルに・・・)
「○○、申し訳ない、ずっとだまってここまで貴方を連れてきてしまって
でも、どうしても私はここに来て、貴方に伝えておきたいことがあったのです」
「伝えておきたいこと・・・」
ふたりの間に、緊張した雰囲気が流れる
そのとき、涼真さんが息を呑んだことが微かにわかった
「私はここで貴方の気持ちを聞かぬまま、強引に貴方を抱きしめ、キスをしてしまった
あの日の夜、私はワインを呑んでいましたが、お酒の勢いとか、そんな軽い気持ちで貴方の口唇を奪ったわけではありません
あの時の私は、けっしてそんな軽いノリで貴方に近づいたわけではない、それだけは貴方にどうしても伝えたかったのです」
(涼真さん・・・それを私に伝えるためにわざわざ四国まで・・・)
「涼真さん、ありがとうございます
わざわざこんな遠い四国まで私を連れてきてくれて、そして、涼真さんの気持ちを教えて頂いて
すごく驚きましたけど、でも今は驚きよりも嬉しい気持ちのほうがいっぱいです
正直、あの時の私は、涼真さんに抱きしめられ、キスをされたことにとても驚きました
あの日の夜は、私が涼真さんにお見合いのことを問いただし、“貴方には関係ない”って涼真さんから言われてしまって気持ちが沈んでいたので、あの時の私は、今自分に何が起きているのか理解できずにいたんです
でも、気付いたんです
あの時の気持ちは、今の私と同じ気持ちだったということを
―驚いたけど、それよりも嬉しかった―」
私はあの日の夜のことを思い出し、顔が綻んできた
あの日の私、まだ涼真さんの気持ちに気付いていない私は、
今の私がこんなにも涼真さんの前で笑っているのだと想像できただろうか
涼真さんに想いを寄せていたあのときの私
不安なこと、落ち込むこと、たくさんあったけど、それでも小さな幸せはたくさんあった
片思いだったから、幸せと感じることもたくさんあった
あのときの私じゃないと味わえないものばかりだっ
「○○、もう一度あの心境を味わいたいと思いませんか?」
「えっ?」
「出発前に貴方に伝えたはずです、“貴方にとってこの休暇は忘れられない休暇にして差し上げる”と
幸い、この部屋は前回と違ってダブルベッドですからね、今晩は私から逃げれませんよ」
そう言って涼真さんは不敵な笑みを浮かべ。私をベッドに追いやる
「りょっ、涼真さん!待って下さい!
あっ、私なんだかお腹すいちゃったなぁ、またあの夜景が見えるレストランでお食事でもしましょう!」
私はかろうじて涼真さんから逃げることができた
「そうですね、まずは食事をしながら、またあの日の夜と同じワインを頂いて
部屋の扉の前でキスをしましょうか?」
「はい!?」
「私たちの初めての思い出の場所です
私に飽きるくらい、貴方にキスをしましょう」
kiss,again~私たちの思い出の場所
私たちと涼真さんが、初めてキスを交わした場所
そんな私たちの思い出の場所は、何回も、何回もキスを交わした思い出の場所へとなる
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