空の宇珠 海の渦 第五話 その三十六 | 空の宇珠 海の渦 

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-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話




村の集会場で族長による話し合いの場が持たれていた。
 
阿弖流為と母礼が驚いていた。
 
あれほど渋っていた者達が、積極的に働きかけてきたからである。
 

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「阿弖流為これはどういうことなのだ?」
 
母礼は納得いかない。
 

自分の説得を断った族長までもがいる。
 

―倭に逆らうと碌なことがない―
 

皆は口々にこう言うのである。
 

今まで、沢山の村が倭に逆らって消えた。
 
一度飲み込まれれば倭の生き方をしなくてはならない。


それは、蝦夷の生き方を捨てると言うことだ。
 

蝦夷は自然からその恵みを分け与えられて生きてきた。
 
自分たちが生きる分だけあればそれで良かった。
 

だが、倭は違う。
 

貴族が生きる分をかすめ取る。 
 

その分は自分たちが生きる分を遙かに上回る。
 

自分たちが貴族のために働かされる。
 

結局、奴隷にされるのと同じ事なのだ。
 

その事実を知りながら、自分たちだけは別だと考えている。
 


「俺にも分からない…しかし…」


 
阿弖流為はそう言いながらも口元は笑っていた。
 


「真魚か…」
 
母礼は気がついた。
 

「蝦夷に未来があるのなら…倭に飲まれる必要はない!」
 
阿弖流為はそうつぶやいた。
 

何かの力が働いている。
 

これはもう疑いようがない。
 

あの時から…。
 

そう…
 

真魚に遭ってからだ。
 

母礼は思い出していた。
 
紫音の言葉。
 

『その人は蝦夷の味方…』
 

紫音は分かっていたのだ。
 
こうなることを…。
 

あの時から全てが動き出したのだ。
 

阿弖流為には見えていた。
 
空から見たあの大地。
 
真魚が言った『蝦夷の未来』。
 

『これで倭を釣る!』
 

真魚がそう言って見せた物。
 

全てのことが繋がって行く。
 

「真魚、お主は恐ろしい男だ!」
 
阿弖流為はそう言って笑った。
 
その阿弖流為を見て母礼も笑った。
 

「そういうことか…」
 
はははっ
 
はははっはっはっ


「そうだ、俺たちは生きて行けるのだ!」


「大地さえあれば!!」

 
阿弖流為が言った。
 

「倭とは違う!!」


族長達は阿弖流為の気が触れたのかと思った。
 

「聞いてくれ!俺に考えがある!」
 

阿弖流為は、族長達に説明を始めた。


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続く…