村の集会場で族長による話し合いの場が持たれていた。
阿弖流為と母礼が驚いていた。
あれほど渋っていた者達が、積極的に働きかけてきたからである。

「阿弖流為これはどういうことなのだ?」
母礼は納得いかない。
自分の説得を断った族長までもがいる。
―倭に逆らうと碌なことがない―
皆は口々にこう言うのである。
今まで、沢山の村が倭に逆らって消えた。
一度飲み込まれれば倭の生き方をしなくてはならない。
それは、蝦夷の生き方を捨てると言うことだ。
蝦夷は自然からその恵みを分け与えられて生きてきた。
自分たちが生きる分だけあればそれで良かった。
だが、倭は違う。
貴族が生きる分をかすめ取る。
その分は自分たちが生きる分を遙かに上回る。
自分たちが貴族のために働かされる。
結局、奴隷にされるのと同じ事なのだ。
その事実を知りながら、自分たちだけは別だと考えている。
「俺にも分からない…しかし…」
阿弖流為はそう言いながらも口元は笑っていた。
「真魚か…」
母礼は気がついた。
「蝦夷に未来があるのなら…倭に飲まれる必要はない!」
阿弖流為はそうつぶやいた。
何かの力が働いている。
これはもう疑いようがない。
あの時から…。
そう…
真魚に遭ってからだ。
母礼は思い出していた。
紫音の言葉。
『その人は蝦夷の味方…』
紫音は分かっていたのだ。
こうなることを…。
あの時から全てが動き出したのだ。
阿弖流為には見えていた。
空から見たあの大地。
真魚が言った『蝦夷の未来』。
『これで倭を釣る!』
真魚がそう言って見せた物。
全てのことが繋がって行く。
「真魚、お主は恐ろしい男だ!」
阿弖流為はそう言って笑った。
その阿弖流為を見て母礼も笑った。
「そういうことか…」
はははっ
はははっはっはっ
「そうだ、俺たちは生きて行けるのだ!」
「大地さえあれば!!」
阿弖流為が言った。
「倭とは違う!!」
族長達は阿弖流為の気が触れたのかと思った。
「聞いてくれ!俺に考えがある!」
阿弖流為は、族長達に説明を始めた。

続く…