
真魚が那魏留の所に行くと、那魏留は家の前で出かける準備をしていた。
「紫音に会ったか?」
那魏留は馬を用意している。
「どこへ行く?」
真魚は那魏留に聞いた。
「嘩威流に会いに行く」
「誰だ、それは?」
真魚は気になる。
「我らの長みたいなものか…」
「元々我らははみ出し者の集まりだ」
「それでも何とか生きていけたのは嘩威流がいたからだ…」
那魏留は言った。
「俺も行こう」
真魚は言った。
「倭の事を話すのであろう、俺がいた方がいいのではないか?」
真魚は荒くれ者共をまとめている、
嘩威流と言う男にに会ってみたくなった。
「それは、そうだが…」
那魏留は少し考えた。
「良かろう、行こう」
那魏留は決めた。
「阿弖流為と紫音はどうするのだ?」
「心配するな嵐がいる」
そう言って足下の嵐を見た。
「俺がついて行くのか?」
嵐は少し不満のようだ。
「その方が早いだろう?」
「ま、それもそうだな…」
嵐は渋々了承した。
「もう、話が終わらないうちに行っちゃうんだから…」
そう言いながら紫音が帰って来た。
「これから俺は那魏留と出かける」
「出かけるって、どこに?」
紫音は突然の話に驚いた。
「紫音は阿弖流為と村に帰れ」
「それはいいけど、馬がいないし…」
「嵐がいる」
「えっ、嵐に乗れるの?」
紫音は喜んだ。
「それは嵐次第だな…」
真魚はそう言いながら嵐を見た。
「嵐、いいの?乗っても!」
「しょうがないな」
「やったー!」
紫音の喜ぶ顔が嵐をその気にさせた。
空の上で紫音は感動していた。
紫音が前、後ろには阿弖流為が乗っている。
「嵐、あなたって本当にすごい!」
紫音の心の波動が嵐に伝わっている。
「言っておくが本気ではないぞ」
嵐はもっと速く飛べる。
そう言いたいのだ。
「ここまで来るのに倭の網にかからなかったのは、
こういうことだったのだな…」
阿弖流為はひとつ謎が解けた。
「紫音、その心に免じて見せてやろう!」
嵐はそう言うと速度を上げ更に上まで昇った。
「何て速いの!」
紫音は心が震えていた。
あっという間に雲を越えた。
この速さで飛んで二人が落ちないのは、
嵐の霊力が二人を包み込んでいるからだ。
「このくらいで良いか…」
そう言って止まった。
そこは嵐がいなければ死を迎える高さであった。
雲の間から水平線が見えた。
「海…うそ!」
「こんな…」
二人は驚いていた。
わずかに丸みを帯びていた。
「だ、大地って、丸いの…」
紫音が泣いていた。
「一つなんだ…」
それは紫音が今まで見たことのない光景だった。
「そうだ、大地は一つだ」
嵐が言った。
「これが、俺たちの大地…」
阿弖流為も感動していた。
大地が一つであるという事実。
「あっ、向こうにも陸が見える!」
紫音が言った。
とてつもなく大きく広い。
だが、一つなのだ。
「これがどういう意味だか分かるか?」
嵐が言った。
阿弖流為はその問いに答える事が出来なかった。
だが、心の奥にざわめく何かを感じた。
良くはわからない。
ただ、それが本当の自分であることに間違いはなかった。
「すごい!」
紫音は心が震えている。
感動の波動を生み出している。
その波動は気高く尊い。
どんどん大きくなる波動を抑えることが出来ない。
その波動は紫音から溢れ出し、嵐に届く。
神もその声を聞いている。

「嵐、ありがとう!」
「私、今、生きてる!」
紫音はそう言うと、嵐に思いっきり抱きついた。
嵐と紫音の波動が同調していく。
『真魚が紫音を選んだ理由がこれか…』
嵐は青嵐がそう言っているような気がした。
「行くぞ!」
嵐はそう言うと蝦夷達が待つ大地に向かって降りて行った。
続く…