小さな明かりの下では四人が話し込んでいた。
切り株の台には、器に盛られたささやかな料理が置かれていた。
だが、それが客人をもてなす精一杯のものであることが分かる。
それを肴に酒を飲んでいた。
「真魚殿はあのような術をどこで覚えなさったのだ」
那魏留が真魚に問うた。
那魏留は二度も助けられている。
「俺にも師と呼べる人がいた」
「その師に…」
火魏留が話に入る。

「術というものは教えてもらって出来るものではない」
「それは弓を習っても直ぐには出来ないのと同じだ」
「弓は練習してうまくなるしか方法はない」
真魚の横に弓の名手である阿弖流為がいる。
「コツはあるが練習以外に上達の近道はないな」
阿弖流為が自分の経験を踏まえて言う。
「術も同じだ」
「やり方が全てではない」
真魚が酒を一口含んだ。
「だとすると、どうやってあのようなもの達を使いなさる」
那魏留は不思議でたまらない。
「口で言うのは難しいな…」
真魚は少し考えた。
「火魏留、悪いがその器を持ち上げてくれ」
「こうか?」
真魚に言われたように火魏留が器を持ち上げた。
「これだ!」
真魚が言った。
「なるほど…」
阿弖流為がほくそ笑んだ。
「もう降ろしても良いぞ」
そう言われて火魏留は器を降ろした。
「人と人は言葉で意思を伝えることが出来る」
「そして、信頼関係さえ築いておけば相手が動いてくれるのだ」
「これと同じだ」
真魚は言った。
「なるほど…そういう事ですか…」
那魏留が理解を示す。
「俺と嵐とは見えない糸で繋がっている」
「言葉も通じる」
「そして信頼関係も出来ている」
「だが、人と違うところは対価が必要だということだ。」
「対価とな…」
那魏留が目を細めた。
「霊力だ」
「しかも、それ相応のな…」
真魚はそれ相応という言葉で片付けた。
「それは、対等という事でしょうか?」
那魏留が興味を示している。
「人が人を使うときと同じだ」
真魚はそう言う。
「お主という奴は…」
阿弖流為は笑っている。
「お主は神と対等か、それ以上と言っているのだな」
阿弖流為は笑いが止まらない。
実際に真魚はそうなのだ。
「人は誰でも生み出すことが出来る」
「霊力とは心と魂が生み出しているのだ」
「心と魂が生み出す力…」
「そうか…」
那魏留は何となくわかる様な気がしていた。
「火魏留はこの力を闇に奪われたのだ」
「奴らはこれを食らう」
「そうであろう?火魏留」
「確かにあれは生きる力そのもののようだ」
真魚に答えを求められ、火魏留が答える。
体験に勝るものはない。
「では、闇はどうして魂の力を…?」
那魏留の興味は尽きない。
「奴らに形はない」
「だから、形のある人の躯には力が及ばない」
「だが魂は別だ…」
那魏留は驚いていた。
「人は心で魂と躯を繋いでいる」
「魂を食われれば心にも影響する」
闇を見たときのあのぞくぞくする感覚。
絶望の淵に立たされたような恐怖。
思い出すだけで身体が震えてくる。
「最後には心が破壊され躯もやられる」
火魏留は震えている。
「よく分かる…」
「俺にはわかるよ…」
火魏留は闇を思い出していた。
心が絶望で満たされていく。
それは恐怖すらも超えていた。
「神と闇は表裏一体だ」
「そして、魂は神の世界と繋がっている」
真魚が言葉に力を込める。
「人と神は繋がっているのだ!」
だが、それは逆に闇とも繋がっていることになる。
阿弖流為は真魚のその言葉を受け入れた。
理由は分からない。
素直に受け入れることができた。
「お主は面白い男だ」
阿弖流為がほくそ笑んだ。
楽しんでいる。
それが分かるのだ。
心が躍っている。
この男といると、何でもできそうな気がしてくる。
真魚は全てを見ている。
「途方もない話だ」
阿弖流為が言った。

続く…