ひとり旅~本と自然、ときどき音楽

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読んだ本、目にした景色、聴いた音楽。感じたことの備忘録です。

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高橋弘希の 『指の骨』 を読みました。


指の骨/新潮社
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舞台は第二次世界大戦中の南国。主人公の20代の 「私」 は戦地で負傷し危うく命を落としそうになりますが、友軍に助けられ野戦病院での生活を余儀なくされます。そこで見た光景とは。”黄色い街道”とは。。。


作者、高橋弘希は34歳で本作を執筆しています。もちろん戦争体験はありません。それなのに、本作はまるで戦争体験を綴ったドキュメンタリーかフィクションのようです。それくらい描写が細微でリアル、描かれた光景を作者が実際に見て、聞いて、感じたとしか思えません。


本作は終盤まで、「私」 が戦地で起きたことをひとつひとつ (こういうこともあったな) (あの時はこうだったな) と回顧し、淡々と事実のみを語る形で進みます。そのせいでドキュメンタリー(という形式)を思い浮かべたのかもしれません。


物語の最後に ”黄色い街道” が出てきて初めて、「これは小説なんだ」 と私は思い知ります。『指の骨』 は作者が想像した世界だったんですね。「私」 は恐らく最後には息を引き取ります。死してなお、自分の体を不思議そうに眺める・・・。


驚嘆しました。戦争体験がなくても、ここまで戦地で起きていること、その悲惨さ、酷さ、兵士の 「死」 を覚悟した(あるいは覚悟できない)悲痛な叫びが描けるとは、恐ろしいまでの想像力と筆致力です。


終盤まで事実を語るのみで 「私」 の気持ちをほとんど感じさせないのは、意図的なのかどうかわかりませんが、最後に ”黄色い街道” を進む 「私」 の心情描写は見事で、一気に 「私」 の感情があふれ伝わり心震えました。


戦争というテーマは不変で、唯一の被爆国である日本人として(そうではなくても)語り継いでいかなくてはなりません。想像でものを言ってはいけませんが、”小説” という形で戦争を語り、平和の尊さを語り継ぐのもひとつの方法なのかなと思いました。


確か本作は芥川賞の候補になった作品です。作者の想像力と筆致力でもって創り出す別の世界も見てみたいですね。