雨宮天さん、28歳誕生日おめでとうございます。
最近この日に向けて、やったことない何かに挑戦してみる(そして才能のなさに打ちひしがれる)ということをやっているんですが、今年は短編小説っぽいものを書いてみました。

いつも公開する寸前まで、こんなものを世に放って良いのか!?やめようか?と葛藤していますが、今さら引っ込められるか、えーい!


54年後、こんな風になってるかな?なってたらいいな?をイメージして書いてみました。
ほんと拙い、それっぽい何か、でしかないものですが、ご笑納ください。
 


「じゃあ母ちゃん、先行っとくから!」

俺は靴をひっかけながら、返事も聞かないまま家を飛び出した。
 

今日8月28日は、ばあちゃんの82歳の誕生日だ。いつもは母ちゃんが何か祝いの品を渡しに行ってるらしいということしか知らないけど、今年は特別に親戚一同が集まることになっていた。


古希や喜寿にも特に何もしなかったのに何で82で?って思うかもしれないけどそれには訳があって、ばあちゃんの名前の「天」の字を分解したら「ニ」と「八」だねって28歳の時に言われたのをいたく気に入ったらしく、82歳の時には親戚一同集まらせて盛大に祝ってもらうって決めてたらしい。何だバカバカしいと思う反面、そういう変なこだわりとか決めたことはやり通すのは、ばあちゃんらしいなとも思う。


本人は天寿祝いだよ、なんて言ってて、"天寿"とは縁起でもない!っておじさん(母ちゃんの兄だ)は猛反発してたらしいけど、聞き入れられることはなかった。そりゃそうだよ。だいたい"天から授かった寿命"とやらで満足するような人じゃないからね。

俺のばあちゃん、雨宮天。現役の声優だ。声優全盛期と言われた50年前とは違って声優という職業がもはや希少な存在となっている。というのもアニメーションの制作が大きく様変わりしたことに要因がある。


今は、舞台テンプレートとアバター・音声・BGMライブラリを利用し、動きと台詞のシナリオを与えれば細かい作業はAIが補助してくれるので、ノウハウを知らなくてもある程度のクオリティの動画制作が可能となっている(たくさんのアマチュア制作者が台頭している)。AIは、シンギュラリティを迎えることはできなかったが、多くの場面で自動化・省力化への貢献には成功したのだ。


つまり、声優含めて人手が不必要なのだ。もちろんプロである制作会社がフリー素材を使うことは少なく、それぞれが独自色を出すことに苦心しているのだが、こと声に関しては全体的にバランスを調整する人がいれば事足りてしまうのだ。そして、そうなると人気アイドルが声のサンプリングを提供さえすれば、役者としては大根であったとしてもAIが違和感のない演技に仕上げてくれる。棒読みで落胆させることもなくファンによる視聴回数の底上げも見込めるというものだ。


じゃあ、ばあちゃんは何をしてるのか?ということだけど、AIが出せない演技・ニュアンスが出てきた時、求められる時に模範演技をしてAIを学習させる為の教師のようなことをしているらしい。


「おなかすいたー!もちー、リンゴ剥いて~!そして食べさせて~!」


もうすぐ着く、というところで声が聞こえてきた。外まで聞こえてんじゃん、相変わらずでけぇんだよ、声!


もちー、というのはももちゃんのことだ。昔、ももばあちゃんと呼んだら「ももちゃん、だよ」とニッコリ微笑みを投げかけられたのだけど、何故か背筋に冷たいものを感じたのでそれ以来ももちゃんと呼んでいる。


駄々っ子みたいなことを言ってたのはうちのばあちゃんだ。お腹が空くと機嫌が悪くなるのだけど、駄々をこねては周りに世話を焼かせた挙句「あたしゃ生涯現役の赤ちゃんだからね!」と悪びれもしない困った人だ。

「ばあちゃん、オレオレ、上がらせてもらうぜ」


リビングに足を入れると、ももちゃんにリンゴを食べさせてもらってご満悦のばあちゃん、横にはヘッドセットをして「よっ」とか「ほっ」とか言って何かと戦うナンちゃんがいた(「ももちゃん、だよ」の直後に「ナンちゃん、だよ」と尻尾を振って寄ってくる犬みたいな目で見られたので流れでこう呼ぶことになった)。


まだ他の親戚連中はまだ来ていないようだ。他のというか、この3人は長い付き合いで苦楽を共にしてきた戦友で家族のようなものだから、血縁ではないけど当然のように2人も招かれているというわけ。


ももちゃん、麻倉もも。9人の孫がいるらしい。ほんわかした空気をいつも纏ってるけど言うことは容赦がない。でもそれで救われた人が少なくないのも事実なのだ。


俺が高校受験で第一志望校に落ち、この世の終わりみたいな顔をしてた時もそうだった。


「人生終わった、みたいな顔してんなぁ?」
なんて声をかけられて、どう返すか躊躇っていたら
「努力して積み上げてきたものが結果に結びつかない、それはほんま悔しいことや、分かるで。でもな、〇〇高校に入ることが目的やったんか?違うやろ?ゴールはそこやない、その先にあるんや。ゴールへ行く道はそこだけか?」
「違う・・かな・・」
「積み上げた努力は無駄にはならへん。思ってたのと違う道でも行ってみな何があるかなんて分からへんし、どの道が正解かなんて誰も分からへん。それを決めるのは君自身や。この道こそが正解だったと胸を張って言えるように頑張ればええんやないの?」

 

そんなことがあったから、後ろ向きにならずに3年間を過ごせたのだと思う。

ナンちゃん、夏川椎菜。ゲーム大好きでVR配信者。VR配信は、配布されていたり制作したVR世界で何かする(演劇なんかが盛んだ)を見たり、その世界の中で一緒に遊んだりできるコンテンツだ。


最近は子供相手の配信にハマってるらしく、紙芝居ならぬVR芝居で子供達を笑顔にさせたり恐怖のどん底に落としたりしてるみたい。


普段はばあちゃんやももちゃんにくっついてはちょいちょいウザがられてるナンちゃんだけど、クリエイティブ方面ではちょっと名の知れた人らしい。


誕生パーティーは全国からのお取り寄せグルメや、ばあちゃんの屈服料理、ももちゃんの底知れない食べっぷりなどで大いに盛り上がったのだが、俺は今一つ場の雰囲気に溶け込めずにいた。というのも、今日ここでどうしても言っておきたいことがあったんだ。


そろそろ言わなきゃ、覚悟を決めて・・・
「ばあちゃん!俺!」
それまで押し黙っていた俺の突然の声に、一同は静まる。
「なんだい?」
ピンと張った糸のようにまっすぐに届くばあちゃんの声に促され続ける。
「俺、ずっと進路迷ってフラフラしてたんだけど、決めた。声優になる!」
「どうして声優なんだい」
「学校で友達に勧められたアニメがあってさ、ものすげー昔のやつなんだけど、見てて号泣しちまって、それで最後に主人公の声がばあちゃんの声だって知って、俺、衝撃でさ、それからばあちゃんの仕事のこと、ちょっと調べたんだ。それで、俺もばあちゃんみたいに、声で想いを伝えて、見る人の心を震わせられるような、そんな声優になりたいって思った。いや、なるって決めたんだ。」
「分かった。気張ってやんな」
即答だった。
「ちょっ・・・」
絶句する母ちゃんの狼狽する姿を目の端で捉えながら、念のため聞く。
「反対しないんだ?」
「反対されると思ってたのかい?調べたってことは、この仕事がこの先厳しいことも承知の上で決めたんだろう?しかもこれほどの面前での宣言だ、相当に覚悟も決めているんだろう。若者が、顔を上げて進もうとしてるんだ、こんな時に大人がしてやれることは、見守ることだけさ。止めることじゃない。」
こう言われては、さすがの母ちゃんも異議を唱えることはできない。家に帰ってからがちょっと怖いけどね。

こうして、無事進路についてのお墨付きももらえたし、ばあちゃんも心なしか嬉しそうだった。
マジで前途多難だとは思うけど、AIを使わないことにこだわる有力資本の制作会社も出てきたし、無い道は俺自身で切り拓いていけたらと思ってる。
 


 

長々と読んで下さって本当にありがとうございます。

敢えて分かりやすい形で書かなかった設定(妄想)がちょいちょいありますが、そこは各自いろいろと想像して頂ければと思います。