sora-ame-kumoのブログ

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2024年~謎の不調が始まり、
同じような症状の方や指定難病の方々の明るく前向きなブログ発信に支えられ、自分も始めてみようと思い立ちました。
好きな空や海の写真を添えながら、日々感じた事などをのんびり綴っています。



光の王と、届かぬ声の物語



むかしむかし、静かな湖のほとりに、ひとりの青年が母とふたりで暮らしていました。


青年は、よく歌を歌っていました。

誰に頼まれたわけでもなく、

誰かに聴かせるためでもなく、

ただ・・・

歌があふれてくるのです。

朝も…

昼も…

夜も…

それはとても美しいものでしたが、

同時に、青年を少しだけ苦しめてもいました。


歌うことをやめられないのです。


静かにしていたい日も、

考えをまとめたい時も、

心が追いつかないほど、

歌は先に生まれてしまう。


けれどその歌は、誰かの心に触れれば、深く、静かに、そして確かに届く不思議な力がありました。


母はそんな息子を、何も言わずに見守っていました。


ある日のことです。

湖のほとりに、見慣れないひとりの使者が現れました。

光をまとったその人は、

青年の歌を耳にした瞬間、立ち止まりました。


そして静かに涙を流しました。


「どうして…こんなにも心に届くのですか」


そして使者は青年にお願いをしました。


「どうか、私たちの国へ来てください」

「あなたのその歌で、どうか“光の国”の王になっていただけませんか」



やがて青年は、光の国の王となりました。

その歌は、民の心を動かし、

励まし、涙を流させ、

孤独な夜にそっと寄り添いました。


王は、民のことを深く深く想う人でした。


「誰ひとり、置いていきたくない」


民たちはそんな強くて優しい王様が大好きでした。



時は流れ…

民たちや燐国の王たちまでもが、

口々にこう言うようになりました。


「王様、王様」

「あなたこそが、光です」

「あなたの歌が、全てを救うのです」


その声は、どこまでも広がっていきました。

王は、その全てを受け入れながら、

やがて、静かにこう思うようになりました。


「まだ足りない…」

「もっと、もっと…」

「すべての民、1人1人に寄り添い救う歌を歌わなければ…」


「誰も置いていかない」

その願いは、昔と変わりませんでした。



王の周りには、いつしか多くの民たちが集まりました。


王の言葉を整える者。

王の姿を称える者。

王の進む道を“正しいもの”として示す者。

彼らは皆、王を見上げて言いました。


「完璧です」

「すべてが美しい」

「誰にも真似できません」


その声は、絶え間なく続きました。


やがて王を讃える声は、王にとっても当たり前のものになりました。



あまりにも自然に・・・

あまりにも隙間なく・・・

「王様に足りないものなどない」

「王様に何かを言う必要などない」



そしてある日、王は考えました。


「もっと高い場所へ行こう!」

「みんなと一緒に、今よりもっともっと高い場所へ行くのだ!!」


それは、王自身のためではありませんでした。

自分を信じてついてきてくれる家来や民たちと一緒に

“広くて素晴らしい景色”を見たかったのです。

民たちに見せてあげたかったのです。



そこで王は、大きな挑戦を決めました。

国中の人々の“想い”を集め、

その力で頂点を目指すという試みでした。


家来たちは大喜びしました。

民たちも大喜びしました。


「素晴らしいです!」

「これは必ず成功します!」

「王様の想いは、世界中全ての人々に届きます!!」


王も信じました。



しかし…

その影で、民たちはひたむきにに手を動かし続けていました。


光を保つために・・・

王の願いに応えるために・・・


時には長く働き、

時には自分の持つものを差し出しながら・・・


けれど王は、そのことを知りませんでした。

知ろうとしていなかった訳ではありません。

ただただ…

その声は王まで届かなかったのです。



王の光はあまりにも神々しく、

あまりにも完成されていて、

家来も民たちも次第に、言葉を選ぶようになっていたのでした。



けれどその頃…

広場の隅や路地の影では、一部の民たちから言葉にならない違和感が静かに生まれていました。



「前の方が、あたたかかったね…」


けれど、その声は悲しいほどに小さく…



「最高です」「感動しました」


という多くの民衆の声に埋もれ、

風のように消えていきました。



やがて、その試みは大成功を遂げました。

称賛の声も、変わらず続いていました。



けれど・・・

何かが…確かに届かなかったのです



王のもとに届いたのは、


「見事でした」

「やはり王様はすごい!!」


という、整えられた言葉ばかりでした。


その一方で、

何も言わず、

静かにその場を離れていく者たちがいました。

寂しさを滲ませながら…



王の胸には、ぽっかりと穴が空いたような感覚が残りました。


「どうして…?」

「みんなのためにやったのに…」

「一緒に美しい景色を見たかっただけなのに…」


その答えは、どこにも見つかりませんでした。

ただ、残ったのは…

静かな虚しさでした。



扉が、そっと開き・・・

入ってきたのは王の母でした。

母は王の隣に座り、

静かに口を開きました。


「少し傷ついたのね」


王は言葉を返せませんでした。


「でもね、これでよかったの」


「もっと高い場所で同じことが起きていたら、あなたは立っていられなかったかもしれない」


母は続けました。


「でもね・・・」

「あなたは、一度同じ道を通っているわ」


王の記憶の奥に、かすかな記憶が甦りました。

まだ国が小さく、

声がよく届いていた頃。

あのときも…

王はかけ足で遠くへ行きすぎて転んでしまったことがありました。



母は王をじっと見つめ、

そして言いました。


「あなたは今、“見えるもの”を信じすぎている」

「でも本当に大切なのは何?」


王の脳裏に、いくつもの光景が浮かびました。


初めて拍手をもらった日。

小さな場所で歌っていた頃。

目の前の誰かのために歌っていた時間。


あのときは・・・

民の声も、ちゃんと聞こえていました。


王はゆっくりと立ち上がりました。


完璧だと言われ続けた自分。

すべてを持っていると言われた自分。


けれど…

その姿は、どこか頼りなく見えました。


届かなかった想い。

去っていった背中。

そして、自分の中の違和感。

それは、空っぽのようでいて…

どこか、次へ続く余白のようでもありました。


王は、まだそこに立っています。

傷は浅く、けれど確かに残りながら・・・

そして、もう一度“聞こうとする者”として。



そして・・・

静かに離れていった民たちは、

振り返ることなく歩きながらも、

ときおり、遠くの光を見上げていました。

その光は、変わらず美しく、

変わらず手の届かない場所で輝いていました。


王の母は、その様子を少し離れた場所から見つめていました。


去っていく背中も、

立ち尽くす王の姿も。

どちらにも、何も言わずに。

ただ静かに…



それでも今日もまた…

歌が生まれてしまうのです。

望んだわけでもなく、

止めようとしてもなお、

心より先に・・・


けれど王は知っていました。


いつか、この歌が途切れてしまうことを…


溢れていたはずのものが、

ある日とつぜん何も生まれなくなったら。

その時に自分には何が残るのか。


その問いから逃げるように、

あるいは確かめるように…

「もっと、もっと」と。

王は、また一歩を踏み出します。


走り続けるしかない者のように・・・



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