銀座で打ち合わせの仕事。
相手が相手なだけにおめかしをして、久しぶりに高いヒールを履いた。

なんでヒールって、タイツだとこんなにも履きずらいんだろう。

滑ってどんどんが足が前に行く。7cmが限界だと経験的に悟ったのに、強がって選んだのは9cmのピンヒール。

銀座で降りて、早くも限界。三越に入って7cmのパンプスを衝動買いした。

必要経費だと言い訳をする。

それなのに待機してたスタバで、キャンセルの電話。なんだか無性に、自分の履いている靴が疎ましくなった。

急に空いた時間の使い方で、人の生活の豊かさが測られる。

友達とご飯、彼氏とデート、1人で映画、買い物。使い方はいくらだってある。
どうしようかとぶらぶらする内、私の行動を制限するように雨が降りだした。

買ったばかりのスウェードのパンプスが濡れていく。
どこでも良いからタバコが吸いたい。それなのになかなかちょうど良いお店が見つからない。

気がついたらコージーコーナーで、食べたくもないのに、なんとなくコーヒーだけじゃ申し訳なくて、マロンパフェをたのんでいた。
1人でパフェ。
きっと一番してはいけない選択。
いつから自分は、こんなに寂しい女になったんだろう。
考えれば考えるほど、自分で1人を選んできた過去が思い起こされる。

このまま1人で生き続けるなんてできっこない。
だけど動けない。動いてはいけないと自分を食い止める、責めと後悔がある。

誰にも言えない過去。
どうやって乗り越えればいいのか、乗り越えてもよいものなのか、自分の中でまだ決着がつかない。

仕事に没頭して忘れてきた。でも逃げても忘れても、いざという時にストップがかかる。

いつかこのストッパーは外れるのだろうか。
その時はもう、1人でパフェなんか注文しない。

そんなことを思いながら口に運んでいたパフェはちっとも美味しくなくて、うんざりしてスプーンをお皿に置いた。

3分の1も食べていないパフェを残して席を立つ。

少しだけ前に進めたかな。
今年の夏、突然オデコにニギビができた。
しかも、一つだけ大きなニキビがぽつんとできたんじゃない。
小さなニキビがポツポツとたくさん、オデコに広がったのだ。
パンデミックだよニキビの。
こういうのを大人ニキビと呼ぶらしい。
昔から乾燥肌で、ニギビなんてほとんど縁がなかったし、できてもすぐに治ってくれた。
それなのに、いくら手持ちのコスメを駆使しても治らない。
そればかりか益々の広がりを見せたパンデミックニギビ。
思えば20代も半ば、10代の頃に比べたらやはり肌力が低下しているのね。
大人ニギビに一抹の不安、というか、かなりの恐怖と危機感を覚え、化粧品売り場にすがった。

オデコと顎まわりはストレスが原因なんですけど、夏頃何かストレス感じてました?と店員。
その一言に、なぜか私はうろたえてしまった。

悩みはない。辛いこともそんなにない。仕事は多分、今のところ順調に行っているし、恋愛はいまいちだけど、今は1人でいたい。
それなりに大変で忙しい毎日を、一日一日精一杯、プレッシャーと達成感と緊張と安堵を繰り返して、なんとかやっている。
確かにギリギリだ。余裕はない。生活も不規則。でもそれがストレスだったら、人生いつだって毎日ストレスフルだよね。

でも、「そんなことありません」と否定したところで、オデコのパンデミックニギビが真実を語っていた。
毎晩12時を過ぎるとすかさず携帯の占いをチェックして、明日の運勢が良いとほっとしてるよね。

寝ようとするとその日の出来事がフラッシュバックして、あーとかうーとか言いながらベッドの上でジタバタして、反省してるよね。
こまめにしてたゴミ出しや洗濯や掃除、最近おろそかだよね。

そう言えば会社以外の人と最後にご飯食べたのっていつだっけ?

頑丈だと思って踏ん張っていた足元が、気づかぬうちに地盤沈下していたような頼りなさ、カッコ悪さ、惨めさが、一つ、また一つと思い起こされるのであった。

「あー…」と言って苦笑いをした私に、店員は何とも戸惑ったような悲しそうな同情するようなそんな表情を浮かべて、色々とオススメアイテムを紹介してくれた。

女性誌を見てると、やたらとコスメページが多い。
私は今まで、なんでそんなに化粧品にこだわるのか、はっきり言って分からなかった。
でもだんだん、服とか靴とかバックとかアクセサリーじゃどうしようもない肌の衰え、というか自分自身の衰えを感じるようになって、すがるものが増えていくんだろう。

時々女性誌を見ていると、宗教雑誌に思えてくるよ。
迷える子羊がたくさんいて、それぞれが背が低いとか足が太いとかお腹の贅肉とか目や鼻や口の形とかニギビとかシミとかシワとかで、日本中のデパートやショップを巡礼して、日本中のエステやサロンで施しを受けて、たまに出会うカリスマに救いを求める。
その中で本当に救われた人は、何人いるんだろうか。きっともうダメだーって絶望的になっている人もいる。

でも私はこれだけは言える。
いいよ物にくらいすがったって、それで何かが好転するのならいくらでも。

あの日店員にススメられ、本当かよ、と半信半疑で使い始めたアイテムが、予想外に効いているのだ。
アルビオンのエクサージュ(コルセス)のコンセントレイトチャージャー。
ビタミン成分がたっぷり入った美容液の14本セットで、一日に一回、2回で一本を28日間で使い切る集中ケアセット。
私はこれで、オデコのパンデミックニギビと、その原因らしきストレスと、おさらばします。
そしてまた踏ん張るのです。ドンドンと力強く、 明日からまたね。