冬の朝、霧の中を歩くレイさんと息子さん。
冷たい空気の中に、土の匂いと、生活の静かな息づかいがある。
村の市場までの小さな道のりに、母と子のぬくもりを感じた朝の記録です。
朝の冷たい霧が、村の屋根や木々の間に静かに漂っていた。
遠くの山並みは淡く霞み、冬の光が斜めに差し込み、霜に覆われた屋根をきらりと光らせる。
細い小道の土は湿っており、歩くたびに靴底がわずかに沈み、湿った大地の匂いが鼻をくすぐった。
息子はまだ眠そうな目をこすりながら、小さな手を彼女に握られ、一歩一歩進む。弟も横に付き添い、静かに小道を歩いた。
父は家長としての役割に重みを置き、村の伝統や掟を守る存在だが、家庭内では距離を置く人物だった。
その影響で、彼女は日常のほとんどを自分で背負いながら、息子と弟を支えていた。
家長としての父の権威や、村全体に根付く古い価値観は、彼女にとって時に重荷であり、また日常の中で村の秩序を感じさせるものでもあった。
市場に近づくにつれ、霧の中に色鮮やかな野菜や果物が浮かび上がる。
屋台の店主たちは元気に挨拶を交わし、冬の冷たい空気の中でも活気が感じられた。
息子は店先の小鳥かごに目を留め、指を差しながら「チュンチュン」と真似て笑う。
母は軽く微笑み、手を握り返す。
小さなやり取りの中に、日常の温かさと安心が静かに流れていた。
彼女は野菜や米、香草を選びながら、今日の夕食や刺繍の作業を頭に描く。
弟は周囲の屋台を見渡し、小さな声で感想をつぶやくが、ほとんど静かに自分の世界にいる。
冬の霧は徐々に濃くなり、屋根や木々を柔らかく覆う。
冷たい空気が頬をかすめ、雨上がりの泥道は光を反射して鈍く光る。
帰り道、息子は少し疲れて母の肩に頭を預ける。小さな手が母の腕に絡みつき、暖かさと安心を求める。
母は背中を優しく撫で、日常の一瞬を噛みしめる。
村の家々は霧の中にぼんやり浮かび、屋根や木々が淡く揺れている。
遠くには父の家、家長としての威厳を示す古い屋敷が見えたが、家庭内での距離感は依然として遠く、彼女と子どもたちの生活には直接影響を及ぼさない。
それでも、父の存在は村の空気や秩序の一部として確かに息づいていた。
家に戻ると、息子は台所の床に座り、買ってきた果物を手に取りながら笑う。
弟は手早く手伝いを始め、少しずつ家の中に秩序を作る。
母は二人の様子を見守りつつ、今日の作業に取り掛かる準備を進める。
霧の向こうに広がる村の景色、湿った土の匂い、冬の冷たい空気——すべてが日常の静かなリズムを作り出していた。
父の存在は遠く、家庭内での距離は大きい。
しかし、母(彼女)と息子、弟の間には、小さな触れ合いや視線のやり取りを通して、確かな温もりが流れていた。
霧に包まれた冬の村で、日々の買い出しという些細な行為さえも、彼女と子どもたちの生活を支える大切な一部なのだ。
今日もまた、村の静かな朝の中で、母と子どもたちは互いに支え合いながら歩みを進めていた。
