ジリリリリリ








うるさい目覚ましから1日が始まった。



高校生の時に使っていたジャージのまま洗面台へと歩く。


髪はボサボサ、開ききらない目はアーモンドのようだ。アラサー女子なんてこんなもの。

寝起きに可愛いパジャマも艶々の髪も存在しない。そんなものは全て人間の妄想だ。






「やっば!もうこんな時間!」





全身鏡の前に5秒だけ立って家を出た。



















「えーと、今日はみんなに大事な話がある」





いつもの退屈な朝礼。

歳だけ食って威張り散らしているハゲ部長が今日はやけに大人しい口調だ。嫌な予感がする。





「この度、会社が倒産することになった」





は?





フロア全体が一気にどよめいた。

それもそのはずだ。薄給で散々仕事をさせておいて倒産だ?冗談はやめて欲しい。


28歳独身で無職って…





しかし、まだハゲ部長の話は終わっていなかった。




「合わせて伝えておくことがある。藤咲ホールディングスがこの会社の従業員を雇ってくれる事になった。」




その言葉にさっきよりもみんながどよめいた。

それもそのはずだ。



藤咲ホールディングスは超一流のIT企業。

その名前を知らない日本人はいない。昨日もCMで見たし、約6年前に私も就活で面接を受けた。

全世代で務めたい会社ランキング上位に必ずランクインするようなところだ。



そんな会社がなぜうちのような無名の会社の従業員を…?




「ただし、正社員としての雇用だが、給料は今の3分の2に減給。それでも良いという者のみの募集だ」




いやいやいやいや、いくらなんでも減給はないでしょ。

今でさえ生活はカツカツなのにこれ以上減給されたら生活できなくなるのは目に見えてる。


いくら超一流企業への就職だとしても条件が悪すぎる。





ていうか超一流のくせにケチすぎない?





周りを見ればみんな戸惑っているようだった。

この時、私は独身で良かったと思った。なぜなら家庭がある人は、決断を大いに迷うだろうが私は1人。

この先まだまだ社会人人生が長いことを考えると、超一流企業への就職も悪くないと思ったからだ。次に転職する時に、大企業に勤めた経歴を書くことができるし。






私は藤咲ホールディングスへの就職を決めた。