なんとか絞り出した曲を聞かせてはもらうものの…
「今までのジュンケイさんとは違いますね。」
「……」
曲にのりこめないと悩んでいる姿を見ると私のかける言葉は力がないとおもう。
(そうだ、あの人なら…)

「もしもし、律子さんですか?私、ソニルです。」
ふと、岡崎さんを思い出しすぐ、奥さんの律子さんに連絡をとった。

「ソニルさん、どうしたの?」
「実はジュンケイさんが…」
私は律子さんにジュンケイさんのことを話す。

「ちょうど岡崎がジュンケイ君に伝えたいことがあるらしいの。今からこっちに来てもらえる?」
「はい、お宅に伺えばよいでしょうか?」
律子さんは黙ってしまった。

私はジュンケイさんと律子さんに言われたある場所へと向かった。
とある病院…

岡崎さんは倒れて入院していた。
驚きを隠せないジュンケイさん…
「ジュンケイ君、ソニルさん」
律子さんが私達を見つけ手招きしている。

「二人ともわざわざ来てもらってごめんなさいね。」
病室に入る前に律子さんがジュンケイさんに作曲のことを聞いてきた。

「はい、なかなか納得するものができなくて…」
「岡崎もそんな時期があったわよ。もう、おしまいだってよく、言ってた。

律子さんはジュンケイさんを見つめて…

「ジュンケイ君には時間も未来もまだあるんだから 大丈夫よ。」
律子さんの瞳が潤んでくる。
「律子さん?」

「岡崎はすごく作曲がしたくて、したくてたまらないのに…ちゃんと作れるはずのあなたが諦めるなんてダメよ。」
律子さんが顔を伏せる。ハンカチで目元を拭いた。

「岡崎さんはそんなに悪いんですか?」
持病の心臓病が悪化し医者からは“覚悟”だけはしていてら欲しいと言われたらしい。

岡崎さんは明日、難しい手術を受けることになっていた。もしかしたら…
ジュンケイさんは言葉がでない。
「ジュンケイさん、部屋に入りましょう。」
そっと、私はジュンケイさんの手を握りしめて病室へと入る。


広い個室の病室には持ち込んだキーボードがありヘッドホンをつけて一心不乱に鍵盤を 弾き譜面にペンを走らせる岡崎さんの姿があった。

「あなた、ジュンケイ君とソニルさんが来たわよ。」
「お、お…二人ともよく来てくれた。」

「ジュンケイ、どうした?しけた顔してるなぁ。」
「岡崎さん、実は僕…」

ジュンケイさんが作曲のことを岡崎さんに話す。
「おまえよりも俺の方が気持ちは元気みたいだなぁ~」
豪快に笑う岡崎さんだった。 

そして、ジュンケイさんにヘッドホンを渡しキーボードを弾き始めた。
「いい曲ですね。」
「そうか、最後にお前に聞かせることができてよかったよ。」