初めての記事ということで一番好きな作品の感想から。
近藤史恵さんの『サクリファイス』の感想を
概要
ツール・ド・フランスなどに代表されるロードレースをテーマにした推理小説。主人公白石誓は、高校生の際に陸上部に所属し将来を嘱望されながらも周囲からの重圧に耐えきれずふとした拍子に目にしたロードレースに惹かれ陸上からロードレースへと転向する。
彼の所属するチーム「チームオッジ」には石尾豪というクライマー(主に坂道を登ることを得意とする選手)タイプの絶対的エースが存在する。彼は自分以外のエースを許さず、他のエース候補を潰しているという黒いうわさがあった。そんな折主人公白石はとあるレースでヨーロッパのチームから注目されるようになり・・・
第十回大藪春彦賞受賞 第五回本大賞2位に選ばれた作品
感想 以下ネタバレ注意
他の方の感想にも書かれているが日本にはなじみの薄いロードレースというテーマをロードレースを知らない方でも理解できるように書かれている点は非常に素晴らしいかなと思う。私自身、ロードレースに心得はまったくないもののそれなりに理解できた。
本作は形式上推理小説という形をとっているが推理小説という土俵にあがっちゃうとこの作品はちょっと厳しい。流れとしては、事故死という事実を前に主人公が真実を究明するというベタなものだし、正直死に至るまでの過程もリアリティがない(特に死亡の動機)。
じゃあなんでこの作品を一番好きな作品なのかというと、この物語の中核ともいえる
「エースとアシストの関係」に強い共感を覚えるから。
ロードレースのチームには「エース」と「アシスト」という明確な役割分担がある。アシストは、エースが活躍できるようエースの前を走り空気抵抗を減らしたり、エースの得意の展開に持っていくために序盤にスパートをかけてレースを混乱させたりする。
レースが始まる前から自分の勝利はなく、他人の勝利の為に走ることが決められている。
主人公はチームのアシストを率先してこなしていた。この事に主人公はこうコメントする。
新潮文庫版『サクリファイス』p92
「そう、好きなんだ・・・・・・なんか、こう、かえって自由な気がする。」
トップでゴールを切ることを目指していたときよりも。
この考え方に私は強く共感してしまう。別にかつて自分がオリンピックを期待された選手だったとかそんな栄光の過去があるわけじゃないんだが(笑)。ちょっとスポーツをやっていてあまり上手じゃなくて裏方の仕事がメインだったというだけの話。それでも自分がアシストした結果選手が活躍するというシチュエーションは自分にとって快感だったり。
このアシストの美学?に対してエース石尾豪は
新エース候補伊庭が主人公白石のアシストをうまく生かせなかったときのエース石尾豪のセリフ
新潮文庫版『サクリファイス』p87
「アシストを徹底的に働かせること。それが勝つためには必要だ。自分のために働かせて苦しめるからこそ、勝つことに責任が生まれるんだ。奴らの分の勝利も、背負って走るんだ。わかるか」
まあ惚れるよね
スポーツをやる以上やっぱり活躍してみたいんだ、そのためにそれなりに努力してみて、それでもほかのやつのが上手くて結果自分は出番が無いってことになるんだけど。
で勝手に期待してしまうんだなあ、願わくば自分の夢や希望を奪った選手は素晴らしい選手であってください、自分のアシストを受けた分大きく羽ばたく人であってくださいと。
そしてそれに応える人間こそチームの代表にふさわしいと私はかんがえているんだけど
そういう自分の長年のチームスポーツに対する哲学をこれほどまでにうまく表現してくださった作品はほかにはない。だから今現在私が一番好きな作品はこの作品なんです。
以下物語の結末に関するネタバレ有 読む方は反転してください
前の文章で、動機にリアリティがないと書いたけど、それでもあそこでロードレースという競技の為に若い選手の為に自死を選べる石尾豪は本当にエースであると私は思う。