自分の感受性くらい
       
                   茨木のり子


ばさばさ乾いてゆく心を
ひとのせいにするな
みずから水やりを怠っておいて


気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか


苛立つのを
近親のせいにするな
なにもかも下手だったのはわたくし


初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもひよわな志にすぎなかった


駄目なことの一切を
時代のせいにするな
わずかに光る尊厳の放棄


自分の感受性くらい
自分で守れよ
ばかものよ

音もなく枯れ落ちる花びら

まもなく地にたどり着いたとき

花びらが追憶した世界は

そこからまたはじまってゆく


光るようなあの色は

彼らの心を震わせ

音もなく色を失うとき

彼らはまた春を待つ