昔、母は絵を描いていた。
その時代に一緒に絵を描いていた母の友人Kさんは3年前に他界した。
そのKさん宅にはKさんの旦那様が一人で住んでいたが、近日中に息子さんの家の隣に引っ越すということになったので、同じく一緒に絵を描いていたYさんと共にKさん宅に預けていた母の絵を受け取りに行って来た。
忙しく引越の準備をしているの中、Kさんの旦那様は私達にお茶を入れてくださり、荷物の整理をしていたらYさんからKさんに宛てた手紙が大量に見つかった話を私達にした。Yさんは「捨ててってKさんに話したんだけど、残ってたんだね。」というと、Kさんの旦那様は
「あんなに沢山の手紙を送ってね、
切手代だけで新車一台買えるやんか。
ホンマに勿体無い。」
「彼女にもよく話していたが、
芸術とか絵描くとか、ホンマにお金が勿体無いわ。」と笑いながら毒を吐いた。
そんな口悪く話していても、その大量な手紙の束を丁寧に一枚一枚手で破って捨ててくれたそうな。
「いーちゃん、彼女の本とか売れるのあるんかな?見てみて。」とKさんの旦那様。
はいよ、と見たら、田中一村、竹下夢二など有名な作家の美本が何冊かあった。
「持ってかえってよ、良かったら。売りに行って。」
御言葉に甘えて持ち帰り、美術書を買い取ってくれる古本屋に持ち込んだ。
結構いい値段で買い取ってくれた。
古本屋の帰りにKさんの旦那様に報告すると、「お金は貰っておいてね」と。
Kさんは難しい病気になり、長い間闘病生活にあった。
入退院を繰り返していた。体中痛かったはずだが、
御見舞いに行くと、本当に喜んでくれて
「来てくれてありがとう。小遣いあげたいわー!」と
笑っていた。
これは、そのお小遣いだと思う。
三年前のKさんの御葬式の時、
お坊さんの読経中に私は急に睡魔に襲われ
ウトウトとしていた。
薄らぐ意識の中、Kさんが沢山の人に担がれながら
笑顔で草原を渡って行く様の映像を見ていた。
私はしばらくその映像を眺めていた。
良かったと思った。
急にその映像を思い出した。
あの笑顔で
「いーちゃん、お小遣いやで。」
って言ってるね、きっと。
