「私がしたいことはただひとつ。ルールを壊すこと」と、彼女は言った。マドンナの言葉である。

私たちはつい、変わることを恐れて今持てる全てを守ろうとしがちである。自分を、家族を、生活を守るために変化を恐れるのである。ところが彼女にはそういうことがない。変えることに意義を見出し、反発をものともせずに涼しい顔をしている。無論、そこには並々ならぬ強い精神力があることは語るまでもないだろう。

マドンナのスタイルをそのまま踏襲することは、不可能である。彼女は言わずと知れたスーパースターであり、私たちはただ無力な個人にすぎないからだ。
しかしそこに見習うべき気構えのようなものを見出すことは出来るのではないだろうか。歳をとるごとに臆病になっていく私たちがふと足を止めるとき――どうしてこの道を歩いているのだろう?とか、この先に何があるのだろう、と不安な気持ちを抱くような瞬間――に、家族を守ることや信念を貫くことの正当性を知ることが出来るからだ。
昨年、マドンナは長年連れ添った夫、ガイ・リッチーとの結婚生活を解消したけれども、それも変化を恐れない彼女らしい決断なのかもしれない。

かくいう私も最近、別れの決断をした。愛を育み精神の礎となっていた人との別れである。
その決断を下すのにはかなりの時間を要し、ただただ迷いの中を彷徨った。樹々の生い茂った深い森の中にあるような混沌とした迷いは、私自身を疲弊させ、不安定にさせていった。ある時その原因がこの二人の関係にあるのだと気づき、ひどく狼狽を覚えた。けれども立ち止まることが得策ではないことをもう、体も心も知っていた。そこで私は整理することにしたのだ。二人の関係、そして自分自身の人生を。

迷いの中にあったとき、私は知らず知らず自己中心的な考えの中にいた。「人のため」と言いながら自分の人生に執着し、自分だけを信じていた面があったのだ。
しかしある時、自分自身に頼りすぎていてはいけないことを知る。自分の内面だけに目を向けていると、偏った知識やエゴに振り回されているようであることを自覚したのだ。
その時から心は開放され、唐突に道は開けた。そこに幾つかのハードルは確かに存在したけれども、それを飛び越えるだけのタフネスが備わっていることを感じたのである。

人にはそれぞれ変わるべき時というのが備えられている。誰しも変わらない人はいないし、変わらない生活はない。あらゆる小さな選択、そして大きな選択をしつつ変化を受け入れて生きていくのだ。
変わるべきときに備えて心をしなやかに解しておくこと――実際にはこれが、大切なことなのかもしれない。