今月のお題は『小さな頃の夢』です。

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幼少のある年頃から、わたしはバリバリと働く女性になりたい、と決めていた。
それが将来の夢だったと言ってしまうのは、どこか茫洋としてつかみ所がないのかもしれない。でも、本当にそうであったから、なにか格好つけて、適当に見繕って、「バレリーナになりたかった」とか「看護士になりたかった」とか言うわけにはいかない。

わたしはとにかくもう、働きたくて働きたくて仕方がなかった。
スケジュールを仕事の予定でびっしりと埋めるような生き方がしたいと憧れていた。タイトなスーツに身を包み、高層ビルの合間を闊歩する。美しいものばかりに囲まれた住空間を得るために昼夜を問わず働き続ける。夜景を見下ろしながら仕事に励んでいる自分。結婚とか出産とかそういうものは全部どうでもよくて、思想やライフスタイルが対等な恋人とは過干渉ではなくつき合っていて、別に一生涯一人の人を愛します、という貞操の念もないようなイメージ。
……は、いくらか後付けされたものもあるが、とにもかくにも生きるということは働くということである、という将来像を描いていたのだ。

そのため、寝ることと食べることは最も無駄な時間であるように思えてそれらはただ苦痛、ナポレオンの体力が羨ましいと思ったり、『24時間働けますか』のコピーに心躍ったりしたものだ。
その、少々エキセントリックな思想に冒された原因がどこにあるのか、振り返ってみてもよくわからない。
しかし少女はまっしぐらにその未来を思い描き、その夢を土台として生きていくことになる。

キャリア・ウーマン。今ではそう聞かれなくなった言葉であるが、わたしが憧れた夢は確かにそれだった。
そして実際大人になり、バリバリ働くようになると様々な現実と向き合わねばならなかった。体は正直だからとにかく眠りたいし、栄養をとらないと体力は持たないし時間をとらないと恋人はへそをまげる。お金はあってもそれを使う時間がないのだ。

理想と現実――実際に向き合ってみるとこんなに違うものだったとは、と青々とした畳の部屋に寝転び疲れ果てて思ったことを覚えている。

24時間、働けますか? 
今そう聞かれたら、限りなくYESに近いNO、とわたしは答えるだろう。

キャリア・ウーマンには遠し――随分、怠惰を許すようになったものだ、と幼き自分の嘆く声が聞こえる気がする。

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