呪い遊び3話
-呪い遊び-
事後
世間では数件目の…
不可解な事件だった。
警察署内でも…
渥美!!すぐに現場に向かってくれ」
「わかりました」
事件のせいでここ一週間、ろくに家にも帰っていない。
疲労も溜まる一方で、ぐったりだった。
「また事件だってさ…」
「ウワサの…」
署内でも噂は広まる。
死人が誰かを殺しにくる…と。
死人には怨まれるな…と。「そんなの気にしてられないけどな」
捜査員たちを引き連れて、俺は現場に向かった。
現場は有名大学…
さぁ…
行くか。
参考人を待たせたらまずいし…
そう思っていたのだが…
「遅い…」
あれから30分以上中庭で待ちぼうけしている。
本当は早くこの場から立ち去りたかった。
まだあの光景が鮮やかに目に浮かぶ…
思い出しただけでも吐き気がした。
しかし、警察が来るまで待機しろと言われたので仕方ない。
聖はあれからずっと、俺にしがみついたままだった。
詩織が何度か聖に声をかけたが、返事はしなかった。
辺りがざわつく。
黒いスーツの男が何人かがこちらに向かってくる。
作業着みたいな服をきた人達が、テラスの中に入って行った。
「県警の者です。まず、従業員の方、お話を伺いたいのでこちらに来て下さい」
一番偉そうな人が校内へ入っていった。
「私、呼ばれてるからもう行くね」
そう言って、詩織はその人の後をついていった。
外はジリジリ暑い。
おかげで早くもテラスから異臭がしてきた。
「聖、大丈夫か??」
聖は余計にキュッとしがみついてくる。
震えている…
誰だってあんな光景、トラウマ物だ。
俺は聖の頭をそっと撫でた。
「咲っ、聖!!」
騒ぎを聞きつけて、棗と双葉が慌ててテラスに駆けつけた。
「大丈夫??」
双葉が聖に声をかける。
「俺は平気だけど…」
聖から返事はなかった。
「聖…まさか…」
そう言った棗に聖はうなずいた。
「そちらの生徒さんも、お話を伺いたいんで…」
聖を連れたまま、校舎の中へ向かう。
「咲…聖を頼む」
棗は双葉とその場に残った。
呪い遊び2話
-呪い遊び-
→香奈→
「お昼はテラスでランチをしようよぉ」
…と、棗と聖がうるさいので、仕方なく二人を引き連れてテラスに向かった。
校内をぬけて、中庭に差し掛かったときだった。
「棗!!」
遠くから誰かが棗を呼ぶ。
「借りてたCD、返そうと思って…ありがとね」
同じ教育学部で別の科を専攻している双葉だった。
「ついでに海老ちゃんもおはよう。寝癖、ヤバいよ」
顔もスタイルもまあまあだけど…
サバサバしていて、いつも強気で。相変わらず、可愛いげのない女だ。
「今からなおしてあげるから平気だよぉ~」
そう言って、一生懸命背伸びをしながら俺の髪をクシャクシャする聖の方が、まだ可愛いげがある。
「棗…聖ちゃん、あんまり海老ちゃんに近づけない方がいいよ」
余計なお世話だ。
「棗!!」
まただ。
棗はあの見た目と人柄のよさと、認めたくないが成績のよさで、学内では有名人だ。
「圭ちゃん、おはよっ」
圭介か…
また、知らない奴が話しかけてきたのかと思った。
って、いちいち警戒して、俺は棗の保護者か!?
「おはよっ。棗と…あと双葉も、吉住教授が探してたぞ」
「マジ!?何だろ…」
すかさず俺が…
「エロ本隠してんのがバレたんじゃないの」
そう言うと、棗はシレッとした顔でこちらを見る。
「アンタと一緒にすんな」
棗を庇うように双葉はそう言って、俺をどつく。
オマエは俺の何をしってんだっつーの。
「咲っ、聖のおもり頼むわっ」
棗と双葉の二人は教授棟に向かった。
二人に手をふる聖の前に、圭介が立ちはだかる。
「聖ちゃん、今日も可愛いね!!今日は何しにきたの??」
相変わらず、馴れ馴れしい圭介。
俺はあんまりコイツが好きじゃない。
「今日はねっ…」
圭介に話し掛ける聖の口をふさいだ。
「秘密」
聖のかわりにそう答えて、圭介をかわした。
「しょーがないから、おもりしてやるよ」
「よろしくお願いですっ!!」
聖は嬉しそうにニコッと笑って、俺の手の指の先をつかんだ。
そのまま聖の手をひいて歩く。
自分で言うのも何だが、なんだか微笑ましい光景だな。
そんな感じで、二人でテラスに向かった。うぃーす、海老ちゃん。今日は特別可愛い子つれてるね…ってか、その子棗そっくりじゃん!!」
「棗の妹だよ」
テラスでバイトしてる詩織(シオリ)にからまれながら隅の方の席に座る。
周りは皆、こちらをチラチラ振り返る。
棗にそっくりな聖を連れているだけで、視線が痛い。
「だいぶ元気になったみたいだな」
「まぁね」
最近、詩織はずっと元気がなかった。
少し心配だったが、顔色も良いし、大丈夫そうなので安心した。
「Aランチと…」
「パスタランチ!!」
聖はご機嫌だ。
二人でいると、何だか和む。
俺の視線に気づいたのか、聖はニコッと笑ってみせる。
俺もこの屈託のない笑顔の、犠牲者だな…
そう思った瞬間だった。
「キャーッ!!」
突然、複数の悲鳴がテラス中に響きわたる。
「何ぃ??」
聖が振り返る。
俺も悲鳴の先を見る。
悲鳴はテラスの入口の方からだった。
辺りにいた人達が皆一斉に逃げる。
そこには仁王立ちの女が立ちはだかっていた。
そう…仕返しは倍返し…」
どこからか声がした。
気がついたら…
入口にはもう、あの女はいなかった
手には…
鉄パイプ…
「やめろよ、香奈…」
男が怯えながら後ずさりする。
「私が悪いんじゃない…あんたが悪いの…」
男はこちらに振り返って逃げ出そうとした。
しかし、女は…
何の躊躇いもなく鉄パイプを振り…
「聖っ!!見るな!!」
…下ろした。
俺は咄嗟に聖を抱き寄せ、かばうように頭を抱えた。
聖はワケもわからずただ呆然としていた。
ドスッッッ…
一発目は脳天を直撃し、男の頭蓋骨は陥没した。
そして…
さらに思い切り振りかぶられた鉄パイプ…
ドカッ…
二発目は背後から腰あたりに入り、男はくの字に折れ曲がり、飛ばされる。
…バリィィィンッ!!
そのまま男は数メートル先の硝子張りの壁にぶつかった。
ありえない。
60キロ以上はあるだろう男が…
トラックに跳ねられたかと思われるくらいの勢いで吹っ飛んだ。
「イテーよ…」
床の上に落ちた男は割れた硝子が体中に刺さって、血まみれになりながらも…
まだ意識があった。
バリリッ…バリリッッ…
必死に身体を動かすたびに、硝子の擦れる音がする。
体は床を、顔は天井を向いていた。
「キャーッ!!」
皆、慌ててテラスから逃げ出す。
呪い遊び 第1話
陽炎でボヤリとした風景の中に立ちはだかる、見馴れない男。
バシッと音をたてて紙切れを突き出した。
まるでドラマで警察が犯人に令状を突き付けるシーンみいに…
「あんた、誰??何なの、その変な紙切れ??チョーきもいんだけど」
男は俯いたまま、にっさ、にっさと笑う。
「僕のこと気づいてもいなかったの…こんなに君を愛しているのに」
男は近づいて来る。
「知らねーよっ!!まじキモい!!こないでよ!!」
鞄を叩きつけたが、微動だにしなかった。
ザクッ…
何かが左の脇腹に刺さる感覚がした。
遅れて、激痛が体を走る。
「…つっ」
その場に膝をつく。
赤黒い液体が傷口から流れでる。
トロリとして生暖かい液体…
生きている証。
「ぃ…ぃゃっ…」
恐怖と痛みで悲鳴は声にはならなかった。
「僕が悪いんじゃないんだ…僕が悪いんじゃないんだ…」
男はその場にしゃがみ込み、アスファルトにナイフをカツン、カツンと何回も何回も突き立てていた。
「そう…僕の悪いんじゃない。君が…君が悪いんだ」
男は立ち上がる、ナイフの先をこちらに向けて。
その顔は快楽すら伺える…
すでに正気じゃなかった。
「やめてっ…ぉ願いだから、殺さないで…」
男はブツブツ呟きながら、時折笑みを浮かべた。
「倍返し…がルールだからね」
「いやぁあぁああぁぁあぁぁ!!」
ナイフは真上から振り下ろされて、首元にザクリと刺さった。
激痛と異物感…
ナイフが引っこ抜かれると…
そこから血が吹き出ている感覚がした…
なんでもそう…
初めは軽い弾みで始まるんだ…
最初は小川のせせらぎ程度でも…
山を下り…
いつしか下流は激流と深見が増す。
そして、広く青く大きな海原へ…
モウ、トメラレナイ
呪い遊び-
始まりの朝
「うわぁっ」
嫌な夢を見て目が覚めた。
自分の首がナイフで刺されたワケじゃないのに、首を押さえて確かめてみた。
もちろん大丈夫だった。
ブーッブーッブーッブーッ…
朝っぱらからうるさく鳴り続ける携帯を枕元で探す。
『着信中 棗(ナツメ)』
ツレの棗だ。
通話ボタンを押す。
「おはよぉ咲夜(サクヤ)っー!!」
女の子の声がした。
もう一度ディスプレイを確認する。
やはり着信は棗と表示されていた。
「…聖(ヒジリ)か。兄貴の携帯、勝手に使うなよ」
「だって、咲、新しいケー番教えてくれないじゃん!!」
やはり、聖だった。
電話の向こうの膨れっ面が目に浮かぶ。
「ちげーよ。おまえの兄貴に口止めされてんだよ」
…ガツッ。
変な音がした。
「おまえ危険だもんっ」
棗だった。
周りがザワザワうるさい。
「早くこないと講義始まるぞっ」
俺のことよりも、兄貴にくっついて大学に潜伏してる高校3年生を何とかしろよ。
と、思いつつも…
1・2年でサボリ気味だったせいで今回の前期はかなりキツかったな。
そういえば、出席もギリギリだった…
「やばっ!!」
ゆっくり考えてる暇なんてなかった。
電話を切り、服を着替えて、寝癖のままで家を出た。
大学までは歩いて10分、走ったら5分くらいで行ける。
7月の1週目だというのに、太陽はギラギラと輝いて地上の水分を奪う。
今からこんな暑さは異常だ。
今年は猛暑になりそうだ…
門を走りぬけ、急いで校内へ入る。
まだ講義開始5分前だ。
いつも通り第三講堂の後ろの扉を開ける。
一番後ろの列の窓側の席に棗が座っていた。
「おはよっ、余裕で間に合ったな」
ムカつくくらい可愛い女顔の男…
棗が椅子の上にしゃがみ込んでいた。
「おかげさまで、遅刻しませんでした」
その言葉を聞いて、棗は満足そうにうなずいた。
「私にもお礼はぁ??」
同じく、ムカつくくらい棗にそっくりな妹…
聖が後ろからテキストと筆記具を持って、ゴンと突進してきた。
「今日はねっ、ちゃんと間違えずに持ってきたよぉ!!」
「ありがと…」
その言葉を聞いて、聖は嬉しそうにニコッと笑う。
この兄妹の屈託のないこの笑顔に、何人の人間が犠牲になったんだろう。
「なつ兄、聞いてっ!!咲のロッカーにエロ本いっぱい入ってたよぉ」
また始まった…
「まぁ!!海老原さんたら嫌らしぃわぁ。聖ちゃん、変なことされないように気をつけてね」
変なのは棗…おまえだろ。
呆れた。
二人して俺をいじめるのが日課らしい。
「なつ兄、それでも私は咲が好きなのよっ」
誰か、この馬鹿兄妹を止めてくれ。
「聖、おまえ高校生だろ…帰れよ。ってか、学校行けよ」
聖は得意の膨れっ面をした。
「今日は社会見学に行くって先生に言ってきたから、いいのぉ」
それは普通、許されないだろ。
そうこうしている間に、予鈴がなる。
結局、聖はそのまま一緒に講義を受け、棗は爆睡、俺は読書タイム…
試験も近いというのに、余裕なのか、馬鹿なのか。
時折、聖がつついたりちょっかいをだしてくるが、野放しておくことにした。
いつも通り変わらない一日が始まった。
そう、まだ誰も惨劇が起きるとは知らずに…