今晩はずっと、そうちゃんのそばにいることにする。いよいよ最期かもしれない。今晩は一緒だ。そうちゃんと一緒の毛布に入って過ごす。
22時に最後の薬をあげてから、激しい息づかいが一向におさまらない。
その間にネットで高血圧について調べまくる。
これまでも何度か発作のようなものがあったが、これはなんなのか、なんとかならないのか。「高血圧、発作」で検索すると、人間の症例が出てきた。
高血圧には突如血圧が急上昇する「高血圧クリーゼ」があり、他にひどい頭痛、発汗、動悸、頻脈などがある。さらに褐色細胞腫では「褐色細胞腫クリーゼ」というちゃんと症状名がついている発作があった。これだったのだ。人間の場合、発作が起きたら点滴で降圧剤を直接入れ血圧を急降下させるらしい。同時に投薬もする。これをしないと心筋梗塞や脳梗塞など重篤な症状になるとどれにも書いてある。そうちゃんも私が気づいただけで12月から5、6回ほど発作のようなものがあった。症状はだんだんひどくなっていっていっていた。私が気づいたときは薬をあげるとおさまっていたが、夜中にたくさん水を飲んでたときは「何で飲むのだろう。夜は血圧があがりやすいからしんどいのかな」と思っていたが、この発作が起きてたのだ。発作のようなものがあると感じてはいたが、れっきとした病名があったとは。他にも褐色細胞腫の合併症で起立したときに低血圧が起こる症状もあると書いてある。立ちくらみをしていたのは薬のあげすぎで低血圧になったのではなくて、やはり逆に高血圧のせいだったのだ。
今まで「犬、褐色細胞腫」で検索しても引っ掛かってこなかったが、人間と同じ症状と考えて調べればよかったのだ。やはり、薬は絶対あげ続けなければなければならなかったのだ。
発作を誘発する可能性のあるもの載っている。飲酒、喫煙、麻酔、バニラアイス、チーズ、赤ワイン、排尿、腫瘍触診、腹部マッサージ、そして、体位変換、とあった。体位変換だったのだ。やってしまった。私がしたばっかりにと衝撃を受ける。
今さらわかってももう後の祭りだ。もう、今のそうちゃんの体力でここまでひどい発作が起こるともう、無理だろうとなんとなくわかる。でも、薬はあげないよりあげたほうがいいとわかったのだからあげ続けようと決める。奇跡が起こって少しでも効いてほしい。
前の薬から4時間経つか経たないかだけど最期のチャンスにかけてみるかと思い直す。
1:40 2錠あげる、が30分経っても効かない。
2:55 1錠追加。30分経っても効かない。
ずっと、ハアハア言って意識朦朧としてるそうちゃんの口に薬を押し込み、水をあげて飲ませる。この行為がすごく怖い。可愛そうであげたくない。これ以上飲ませると逆に死ぬのではないかと怖い。私の判断がそうちゃんの命を左右させる。
途中で家人が起きてきて、薬を飲ませてる様子を見て、「まだあげてるの?可愛そうに。きっとまだ大丈夫よ。もうしばらく様子を見たら?明日仕事なんだからもう寝なさい。」と言う。病気について説明しても具体的には理解できていない年老いた家人を責めることはできないけど、でも、これまでも何度も薬の重要性を説明してきたが今に至ってもピンときてない家人に対し、感極まって、「私だって薬を飲またくないし、怖い。でも飲ませないといけない。これ以上気持ちを逆撫でしないで。」と泣いて叫ぶ。
そうちゃんの命を預かっている責任、生かすも殺すも自分次第なのだといやと言うほどわかってるつもりだったが、まだそれを行わなければならない辛さ。自分がやってることが正しいのか誰か教えてほしい。でも誰もいない。自分で戦うしかないのだ。
3:20 1錠さらに追加。
まだ効かない。もう、1錠追加するか迷う。怖い。次をあげると前回よりも多く5錠になる。こんな実験のようなことしたくない。こんな弱った体にあげて逆にあげたことで死んでしまうのではないか。葛藤する。でも、あげ続けないと血圧が下がらないはずだと信じよう。
3:55 1錠さらに追加
過去最高の一度に5錠。もうこれ以上は無理だ。
6:30頃 2時間経っても効かない。症状が起きてから約半日。もう、ダメだ、戻ってこないとわかる。
外が白々と明るくなり始める。ハアハアと激しく息をしてつらそうなそうちゃんを見て、もうお別れなのだと思うと号泣してしまった。そうちゃんの前で泣いてはいけないと思ったが、見てると辛すぎて耐えきれなかった
8:30 病院にtel
昨日の晩から、高血圧の発作が起こり、動悸が激しい、薬が効かない状況を説明し、このあとどうなるのかと聞く。
「その状況だと次は多臓器不全になる。何日も持つわけではない。一日とかだと思う。」と言われる。やっぱりそうなのだ、無理なのだ。しかもあと一日だった。これだけの激しい息づかいなのだからそうなのだろう。
「薬が効かないのは攻撃するホルモンが多くなっているからか。」と聞くと、「そうですね、腫瘍が大きくなった影響もあると思う。今究極にだるいとは思うが痛いわけではないと思う。見守ってあげれれば。」という。だるさを越えてすごく苦しいように思うが。痛さと苦しさ、どちらがいいのだろうか
薬をあげ続けて意味があるのかと聞こうとする前に、先生から「薬はあげれれば1日3回でもいいのであげてください。」とのこと。あげて良かったのだと少し救われる。
9:30 2錠 水と共にペットシーツに粉状になった薬が少し流れ落ちているので2錠全て飲んではいないと思うが、いくらかは飲んでいるだろう。
9:55 1錠 先ほどの量が2錠弱だったので追加。
少しでも効いててこの激しい呼吸なのか、全然効いてないのかがわからない。でも、効いてるのであってほしい。でも、中途半端に効かせて苦しみを長引かせてるのではないか。心が葛藤する。
ずっと激しい呼吸。心臓がものすごく早い。発作が起きてから、もう、顔もあげれないが、横になった口元にお水をシリンジであげるとよく飲む。こんなに激しい呼吸。相当喉が乾くのだろう。
唯一救われるのは頭痛が起きていないのか呻かないこと。これまでも何回か発作が起きて呻いていたとこを見た。相当ひどい頭痛が起きていたんだと思う。ひょっとすると今回のは尋常じゃない頭痛が起きていてうめくレベルをこえているのかもしれないけど、そうじゃないことを祈りたい。会話ができたら、そうちゃんの気持ちがわかるのに。
それにしてもそうちゃんはおとなしい。頭が痛くて吠えたのは1度だけ。それ以外はうめくか悲しそうに鳴くかぐらいで本当に我慢強かった。
午前、午後の合間に家人もしばらくそばにいる。そうちゃんの思い出話で過ごす。
家人が試しにお気に入りだったぶたさんのおもちゃで音をならすと、パッと目を開ける。鼓動が益々速くなった。わかってるんだ。家人も泣く。でも、まだ、意識があるなんて、辛い思いをさせてごめんなさい。
毛布の下で自分の足をそうちゃんの足とぴったりとくっつける。でも、時々そうちゃんが足をずらす。手もずっとなでなでしてると時々手をずらす。元気な時でも触られるのを嫌がったそうちゃん。しんどい時になおさら触ってほしくないのだろうとわかる。でも、嫌われれしまって悲しい。
16:36 2錠 飲ませる。あげるのが辛い。もう飲ませたくないが、これで少しでも血圧が楽になってほしいと祈ってあげる。
18時頃 お水を上げても少しは飲んだが、あとはあまり飲み込まない。
19:00 ずっとそばにいてそうちゃんの激しい息づかいを聞いてるといたたまれなくなる。
せめて苦しまないように逝かせたいと思ったばかりなのに、私が引き金を引いてしまった。こんな結果ってあまりにも残酷だ、こんな仕打ちを神様はお与えになるのですか、薬が効いて楽にしてあげてほしいと神様に祈る。
辛すぎて心がおかしくなりそうになってきたので、台所に寄る。私の様子を見て、家人から「見ておくから1、2時間仮眠をとったら」と言われる。徹夜になるかもしれないので交代してもらう。
20:20 家人に大声で呼ばれ、駆けつけると心臓が止まった直後だった。
家人曰く、前足がぐっと伸びたなあと思ったら
顔を下に向けたらしい。
そうちゃん、そうちゃんと二人で呼び掛ける。必ずまた会おうねと呼び掛かける。
もう、お別れだ。あっけなく逝ってしまった。本当に1日しかもたなかった。
きっと、心不全で死ぬだろうから死ぬ時は一瞬だろうと思って、24時間ずっとそばにいたのに、私がいない隙に逝っちゃうなんて、どうして。私のことが嫌だったのか。
きっと、私には死ぬところを見せたくなかったのよと家人に慰められるが、このタイミング。これもそうちゃんの意思なのか。
悲しみに浸りたいが、急いで段ボールで棺を作り、そうちゃんを横たわせる。お気に入りのおもちゃをやタオルをいれる。
体重を量ると約19kgだった。
病気以来4kg近く痩せてた。人間だと12kg分ぐらいか。むくんで水分の分があるだろうから、お肉部分はもっと痩せてるのだろうけど。
修論が終わってたった二日で逝ってしまった。
もう少し一緒にいれるかなと思ったのだけど、早かった。
でも、修論が終わるまで待ってね、と言い続けてたので、これでもむしろ、頑張って待っててくれたのだろう。頑張らせてしまった。よく頑張った。
最後を苦しませてしまったのが本当に申し訳ない。ごめんね、そうちゃん。。