閃光(せんこう)
この物語はフィクションで登場人物、個人名団体名全て作者が創作したものです。

登場人物
家紋龍之介(かもんりゅうのすけ67歳)寿司屋 愛菜(あいな)の店主
家紋正美(かもんまさみ64歳)龍之介と共に愛菜を切り盛りする、おしゃべり上手で如才ない
五百井愛菜(いさいあいな35歳)龍之介と正美の子、幼い頃から優秀で、東京のN大を卒業後IT関係の業種に就く
五百井光一(いさいこういち35歳)愛菜の夫
家紋翔一(かもんしょういち)愛菜の兄だったが、早産で生まれ亡くなる
あらすじ
家紋龍之介は世界一の大きさを誇る上越発電所を有する地区にある、「さんさん通り」商店街の寿司屋店主で妻の正美と共に店を切り盛りしていたがこの頃客足が遠のいていた。
原因は、中越沖地震の影響を受けて上越原子力発電所が廃炉に向かっている為だった。
第二話
再稼働
「おい、テレビつけろ!」
仕込みから帰って来た龍之介の声に驚きながら、正美は言いつけ通りに自宅の居間に鎮座する55インチ最新型レグザのリモコンを手にし、ボタンを押すと…。
無表情なアナウンサーの口がおもむろに開く。
「上越原子力発電所の再稼働が県議会で正式に決まりました。早くとも来月には試運転が実行されるもようです。」
「再稼働が本決まりだ。これで上電の職員さん方も帰ってくるな。いよいよ愛菜も大忙しだ。」
龍之介の声は弾んでいた。
「そうだといいけど。だって、建屋で火災もあったし、この前もドローンが発電所内に入っていたんでしょ。そんな事も分からなかったのに、心配だわ。」
正美の心は再びあの頃、長男翔一が産院で何の問題もないと医師に言われていたのにもかかわらず早産しかも死産で生まれたあの頃に…。
そういえば智子も同じ時期、流産していたって噂流れていたんだった。
「愛菜」に来ていたお客が話していたんだから間違いない。
智子は複雑な家庭で祖父母に育てられた苦労人だった。
思い出した、翔一がお腹にいた頃上電職員さんのミスで原子炉格納容器の圧力がコントロール出来なくなったってニュースで言ってはず。
あの時、微量の放射能が確認出来たっていったのよ。
なのに、直ぐ、訂正の緊急ニュースが流れた。
「上越原子力発電所付近では放射能は検知せず」って・・・
あれが圧力で流されていたのだったら、いや、私の思い過ごし、絶対にそうだわ。
「おい、どうした、顔色悪いぞ。」
龍之介の声で正美は正気を取り戻した。
「大丈夫、今朝の鮭が美味しくって食べ過ぎたみたい。」
心配させたくない正美はその場をなんとか取り繕った。
「もうじき孫が生まれるんだぞ、しっかりしてくれや。」
龍之介は嬉しいはずなのに何故か愛華がラインで送ってくれた胎児のエコー写真に映る違和感をまた思い出した。
考えすぎだ、愛華は元気だって言っていた。
「廃炉から再稼働になるって少し危険な気もするわ。」
正美は力ない少しくぐもった声で申し訳なさそうに龍之介に聞いてみる。
「何言ってんだ!上越発電所は世界一大きんだぞ。頑丈に出来てるって上電さんのお偉いさんが地区の皆を集めて膝と膝をくっつけて本音で話し合ったじゃないか。俺たちが信じなくてどうするんだ。生活が掛ってるんだぞ。」
「ごめん、少し不安になってしまったわ。」
「いや、俺も言い過ぎた。悪かった。」
言葉と裏腹に龍之介は再び愛菜がラインで送ってきた胎児のエコー写真を見た時の違和感がどうしても拭えない。
愛菜は順調だって言ってたんだから、考えすぎてるんだろう。
可愛い孫が生まれて来るんだ。
楽しみに待ってようや。
貴方どうかしたの、顔色が悪いわ。
「なんでもない、これから忙しくなるかと思うと緊張してきたのかも知れない。」
貴方らしくないわ、ともかくお互い体調に気を付けないと、もう年なんだから。
龍之介は正美に声で現実に戻ったような気がしたが、やはり孫になるであろう胎児のエコー写真に感じた違和感に囚われていた。
そんなやり取りをしていると、とつぜん正美のスマホが鳴った。
「はい、久しぶりじゃない順調なんでしょ、うん、そうなの。」
通話の相手は愛菜らしい、龍之介は静かに愛菜(夫妻が経営する寿司店の名前)に戻っていった。
上電再稼働の嬉しさと、ラインに映る孫のエコー写真を見た時の不安感を抱きながら…。
つづく