閃光(せんこう)
この物語はフィクションで登場人物、団体名全て作者が創作したものです。
その点ご了承下さい。
登場人物
家紋龍之介(かもんりゅうのすけ67歳)寿司屋 愛菜(あいな)の店主
家紋正美(かもんまさみ64歳)龍之介と共に愛菜を切り盛りする、おしゃべり上手で如才ない
五百井愛菜(いさいあいな35歳)龍之介と正美の子、幼い頃から優秀で、東京のN大を卒業後IT関係の業種に就く。
家紋翔一(かもんしょういち)愛菜の兄だったが、早産で生まれ亡くなる
あらすじ
家紋龍之介は世界一の大きさを誇る上越発電所を有する地区にある、「さんさん通り」商店街の寿司屋店主で妻の正美と共に店を切り盛りしていたがこの頃客足が遠のいていた。原因は…。
第一話 違和感
家紋一家の大黒柱龍之介は一代で築いた寿司店「愛菜」この名は後に生まれてくる娘の名になるのだが、日に日に客足が遠のくのを不安に感じていた。
「今日は団体8名様のみ、原発が廃炉になるって噂になってからこのしまつ。誰が原発反対してんだ、一体全体…。今の原発の技術なんざー昔と違って安全なんだって上越電力のお偉いさん方が直接俺らに説明に来てくださったのに!皆、なーんも分かってない。」
家紋の家は世界一の大きさを誇る上越原子力発電所が眼下に見える高台にそびえたつ豪邸と言っても過言ではない。
原発を有するこの地区の家並みは普通に豪邸が並び立つ。
これが普通、他の原発地区の事は龍之介達は知る由もないが。
たまの休みに正美とドライブに行くと必ず「俺たちは運がいいよな!ほら見てみろ、この程度の家が普通なんだぜ!」度々言い聞かせる様に車中で龍之介は正美に問いかける。「そうね、私ら運良いのよね。」でも、正美の目は何か訝しんでいるように見えなくもない。
正美の目は心は龍之介がその話をする度にあの日に帰る。
そう、長男翔一を亡くしたあの日に…。
産院では問題ないと医師が説明していたのにもかかわらず結局は早産で生まれお腹から離れた瞬間には息を引き取っていた。
正美の動揺ははかり知れなかった。
初めての子、しかも男子。
田舎では未だに男子直系を重んじ、親戚筋特に正美の両親は男子出産を心待ちにしていたのに。
名前だけでも欲しい正美の願いと共に出生届を役所に出し、小さな亡骸を箱に詰め小さな小さな小さなお葬式を済ませお骨を先祖代々の墓に収めた。
すると、何故か同時期に友人の智子が流産したとの噂が正美の耳に入って来た。
「私だけじゃない。皆苦労してるんだ。」
正美はそう自分に無理やり言い聞かせ、「子宮は残っている。次があるんだ、私は負けない!」元来明るい正確の彼女は徐々に立ち上がっていった。
正美の願いは天に届いた。
次の年彼女は女の子を授かる。
あの日の事は未だ忘れられない。
時は愛菜が生まれる前にさかのぼる。
大きなおなかで店の仕込みに出ていった夫を見送ると、朝食の後かたずけを行っていたまさにその時、「ぐるっと」眩暈が正美を襲う。
暫くするとその眩暈が収まり、はたと気が付く。
急いでテレビをつけるとニュース速報が流れ「震度3新潟市、震度4長岡市、柏崎市…。、今、上越原子力発電所第7号機建屋付近から火災発生、付近の方々は自治体の指示にしたがって…。」
焦った正美は急いで龍之介に電話すると「こっちは大丈夫だがそっちはどうだ?2、3枚皿が割れてるがな。まあ、落ち着いてテレビ見てみろ、鎮火したってよ!忙しいんだ切るぞ!」
龍之介の言う通りでアナウンサーが鎮火したと言っている。
正美は少しだけお腹の子が動いたような気がした。
「大丈夫、大丈夫、あんなに大きくて立派な建物が火災ごときでおかしくなるはずない。」
その直後思いもよらない事実をアナウンサーが告げる。
「少量の放射能流失が確認されました。上越原子力発電所付近にお住まいの方々は自治体の支持にしたがって速やかに非難してください。」
だが、直後、訂正のニュースが流れる。
「ただいまの微量放射能流失は誤報でした。繰り返します。ただいまの微量放射能流失は誤報でした。住民の方々は落ち着いて下さい。」
正美は何が何だか分からなくなり再び龍之介に電話した。
「貴方、どうなっているの?」
「だから、大丈夫だって。テレビ見てんだろ!」
「でも、放射能が確認されたって!」
「バカ言ってんじゃないって。上越原発は世界一頑丈にできてんだぞ。疑うなんて、少し冷静になれよ。」
「わかったわ。ごめんなさい。」
「じゃ、切るぞ。これから上電の社員さんが大勢来るんだ。お前もこっちに来て手伝ってくれないか?」
「わかったわ。落ち着いたら行くわ。」
「おいよ!まってるぜ!」
龍之介の声で少し冷静になった彼女は支度を整え「愛華」に向かう途中で眼下にそびえ立つ上越原発を祈る様に見送る。
「そうよ、あんなに立派な建物見たこと無いんだから。少々の火災でどうのこうのなる訳ないわ。」
自分に言い聞かせる。
だが、不安感は拭えない。
「愛華」に着くと龍之介が忙しそうに仕込み作業をしている。
「遅かったじゃないか。身体大丈夫だよな。」
正美はコクリうなずくと、テーブルを拭いたり、割れた皿をかたずけたり、忙しくしているうちに地震による火災を忘れていた。
やがて愛菜はに少し大き目、3キロちょいで無事に生まれた。
「きっと翔一が守ってくれたんだわ。」正美は本当にそう感じていた。
愛菜は両親とは違い出来の良い子に育った。
中一では数学で学年トップになったほどの秀才。
性格もいたって穏やか、いじめに会っている子を見つけると、即座に教師に伝える様な正義感も強かった。
智子もその一人、彼女の家庭は複雑で祖父母に育てられ、授業参観に祖母が来るたびに同級生から「お前の母ちゃんばばあだな」からかわれる始末。
その現場を見るたびに愛菜は「なにいってんのよ!おばあさんが参観日に来てなにが悪いのよ。智子ちゃんに謝って。」いじめっ子を怒鳴りつける。
そのあと必ず愛菜は智子を家まで送っていく。
その正義感が買われ、3年性の時には生徒会長にまでなる。
高校も地元の進学校に進みそこでも成績優秀で、東京の難関N大学に受かった。
両親とも愛華が自慢で、龍之介はよく冗談で俺の子じゃないかも?店に来る客に向かって愚痴とも自慢ともつかない話をしていた。
大手IT企業に就職もし、順調そうに過ごしていた愛菜だったが、仕事が忙しくなかなか縁遠く30過ぎに職場の同僚五百井光一と出会い添い遂げる自信がついた。
式も愛菜の地元柏木市で行い、新郎、新婦、光一の両親、弟、龍之介、正美、7人だけの出席で滞りなく行われた。
愛菜は仕事も続け幸せだったが、なかなか子宝には恵まれなかった。
そんな愛菜がついに半年前妊娠が発覚。
龍之介、正美は少し遅い孫の誕生に喜びいっぱいだった。
こっちに来て観てよ、愛菜がラインで送って来たのよ。
そこには胎児のエコー写真が映っているが、龍之介は言葉に出来ない…。
違和感を覚えた。
「何かおかしいなんなんだこの違和感は。」
龍之介は心の中で叫んでいた。
「貴方、どうしたの顔色悪いわよ。」
「いや、なんでもない。良かったな。順調なんだろ。」
「そうよ、まだ性別は分からないんだって。」
「どっちでもいいんだろ。五体満足なら。」
「そうよね、身体弱かったら可哀そうだもんね。」
正美は翔一の事を思い出し、悲壮感に襲われそうになったが、持ち前の明るさでその場を乗り切ったが、龍之介は違っていた。
「なにかがおかしい、俺が変なのか?」
愛菜がラインで送って来た胎児、後に彼の孫になるであろう写真を見た瞬間に覚えた違和感がどうしても拭えない。
はたして龍之介の感じた違和感はただの思い過ごしなのだろうか?
気が付くと仕込みに行く時間になっている。
「いってくるわ!」
青ざめた顔色の龍之介は上越原子力発電所を眼下に見下ろす我が家をあとにした。
つづく