第1 設問1(以下特記なき限り条数は民法を示す)
1AがCに対してなすべき主張
本問において、BはCに代理して(99条)、保証契約(446条1項)を締結している。この場合において、Cは平成22年6月11日の時点で、Bに対して代理権を授与していないため、BのAとの保証契約の締結は、無権代理(113条1項)によってなされたものとして、Cに効果帰属しないのが原則である。
 しかし、本件においては、6月15日にCが電話で、連帯保証人になることを承諾しているから、保証契約は6月11日にさかのぼって効力を生じることになる。
 また、6月11日の時点で、Bによる保証契約の締結においては、契約が書面によってなされているため(446条2項)、書面の要件も充足する。
 よって、CはAに対して、保証契約の履行として、4500万円を支払うべきである。
2 Aの主張に含まれる問題点
ア Cは、AC間の保証契約が書面によってなされていないので、効力が生じないと主張している。この場合、連帯保証契約について追認についても書面が必要かが問題となる。
イ ここで、446条2項の趣旨は、保証契約の締結に際しては、保証契約が保証人に重大な負担を課することが多いことから、意思の慎重を担保するために、保証契約の締結に際して書面を要求する点にある。そうすると、保証契約につき書面によらない追認をみとめると、書面による慎重に意思決定する機会が与えられないことになる。これは、法の趣旨からすれば妥当ではないため、書面によらない保証契約の追認は認められず効力を生じないというべきである。
ウ 本件では、Cは書面による追認をしていないため、保証契約は効力を生じない。
(3)よって、Aの主張は妥当とはいえない。
第2 設問2
1BがFに対してなすべき主張
 Bとしては、Hが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせ雨漏りを生じさせた点につき、用法遵守義務 (594条1項、616条)違反に基づく債務不履行責任(415条)としての損害賠償請求をFに対してすることが考えられる。
2Fがなすべき主張
(1)まず、Fは本件でHの過失による建物の亀裂の発生は、債務不履行に当たらないという主張をすることが考えられる 。
(2)つぎに、Fとしては、自らに帰責性がなく、債務不履行責任は生じないと主張することが考えられる。
 すなわち、債務者に従属しないで債務者の履行を助けるいわゆる独立補助者の過失については、債権者の同意がある場合には、債務者は独立補助者の選任監督義務のみを負担する 。そして、本件では、Hは独立補助者にあたるところ、BはHに内装工事をさせる事を承諾している。この場合、FはHの選任監督責任のみを負担するが、Fはこの選任監督責任を果たしている。
3では、B,Fいずれの主張が認められるか。
(1)債務不履行に基づく損害賠償請求(415条)の要件は、①債務不履行、②損害、③因果関係、④帰責性である。
(2)①について
 本件では、前述のように賃借人Fは用法遵守義務を負っている。具体的には、賃借人Fは、事業用の建物として丙建物を使用できる状態に保つ義務を「契約」の「性質」からすれば負っていると見るべきである。
 本件では、Fは使用しているHを介して、丙建物の一部に亀裂を生じさせて、雨漏りを生じさせてしまった。この場合、雨漏りが発生した建物は、事業用の建物としての使用には使えないため、上記の事業用の建物として丙建物を使用できる状態に保つ義務違反したといえる(①) 。
(3)②、③について
 Fの不履行から生じた雨漏りの補修にBはEに100万円を支払ったことから、100万円の損害を蒙ったといえる(②、③)
(4)④について
 帰責事由には、過失を含む。そして、過失とは注意義務違反をいう。本件では、前述のように、Hは独立補助者にあたるところ、BはHをFが利用することについて、承諾しているため、Fは選任監督義務に違反した場合に過失が認められる。
 本件では、Fは内装工事を行うに当たって、内装工事を専門とするHを選定した上で、Bから丙建物の設計図を取り寄せるなどして、Hともに内装の仕様、施行方法等を検討している。この場合、Fは、Hを利用するにあたって、慎重に慎重を重ねた協議 をおこなっているのであるから、監督にあたって注意を尽くしているといえるため、過失は認められない。したがって、帰責性もない。
(5)以上の検討により、損害賠償請求は認められず、Fの主張が認められる。
2設問3
1Gが報酬相当額についてBに請求する権利を有する点について
 まず、賃貸人Bは、Gに対して修繕義務をおっている(606条1項)。そこで、窓が損傷し、外気が吹き込む状態になった場合には、賃借人Bは必要費として30万円を請求する権利を有しているといえる(608条1項)。
2Gがなすべき主張
 Gとしては、掲載判例の射程が及ばないため、本件では相殺が可能であると反論することが考えられる。
すなわち、掲載判例は、抵当権の存在が登記によって公示されているため、その後になされた相殺の合意については、抵当権者の物上代位(304条、372条)に優先するような相殺の期待を発生させるものではないため、相殺が認められないとしたものである。
 本件では、相殺に供せられる自働債権たる必要費償還請求権は、法定の債権であり、これについてはあらかじめ相殺の期待が生じるといえる。よって、本件には判例の射程は及ばない 。
                           以上
再現日 5月26日
4枚 構成45分 作成75分