高校の同級生Sから聞いた話があまりにも後味が悪く、忘れられない。Sの母親が子供だった頃のエピソードです。
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今年は酉年ですが、今から60年前の酉年、北陸の田舎町に1人の女の子が誕生しました。後にSの母親となるK子です。
K子には3人の兄(武、浩、清)がいた。すぐ上の兄とは4歳違い。
K子の父は典型的な亭主関白。母は過干渉でとても口煩い人。父の方針で、K子は幼稚園に通わせてもらえませんでした。
父が出勤し、兄達が登校してしまうと、家には母とK子の2人きり。幼稚園に行かないK子には、過干渉の母から解放される暇もありません。
K子は、毎日毎日聞かされる母の小言にうんざり。でも口答えは逆効果。“躾”の美名を纏った小言が何倍にも増えて返ってくる。
幼いながらもK子は、「私は3人続いた男の子の後に初めて生まれた女の子。お母さんが煩く言うのは一人娘の私が可愛いから」と自分に言い聞かせることで耐える術を学んで行きました。
ある日、K子の心を深く傷付け、K子の人格形成に多大な影響を与える“事件”が起きた。
父から「自分一人で海外旅行に行く」と言い渡されて虫の居所が悪かったその日の母は、いつにも増して口やかましい。我慢の限界を超えたK子は、返事もせず、上目遣いで母を睨み付けた。
母もK子も無言。お互いに怒りを込めた眼で見詰め合う。程なく母が沈黙を破った。
「K子。本当ならお前は生まれるはずじゃなかった子なんだよ。お前にはもう一人お兄ちゃんがいた。お前より2つ上。名前は正。正が死んで、代わりにお前を作った。正が生きていたらお前はこの世にいない。うちは子供は4人で終わりと決めていたから」
抑揚のない低い声と表情のない白い顔のあの時の母。半世紀以上も前の出来事なのに、今でもしばしばK子の脳裏に鮮明に甦る。
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30歳目前で結婚したK子。すぐに身籠りSが生まれたが、Sが小学生の時に離婚。Sを置いて出ていった。離婚理由は「妻として愛されている実感がない」だったとか。
離婚したK子は職を転々としながら糊口を凌いでいますが、数年前から明らかに統合失調症と思われる激しい被害妄想に取り憑かれています。今では完全に狂気の域ですが、K子本人に統合失調症の自覚はありませんので病院にも行きません。
母親の言動に悩まされ続けたSは無断欠勤の挙げ句、行方不明です。Sには兄弟姉妹はいない。父親も祖父母も故人。