バイクという趣味は本来ならば楽しいものなのだと思っている。
バイクという趣味のカテゴリーは多岐にわたり其々のカテゴリーには似た者同士が集うことになるのだが、自分が選んだカテゴリーは非常に稀有であったことから似た者は非常に少なかった。
自分がバイクに求めた姿は、むき出しの凶器だった。
誰も近付いてこないしね😝
そして、自分のクラブ内や箱根のコアな走り屋達には試練があった。
この試練に向き合ったときに、ほとんどの仲間はバイクから離れてしまった。
その試練は『仲間の死』だ。
さっきまでタバコを吸って一緒に話していた仲間が冷たい肉の塊になってしまうという現実と向き合えば、どんな悪党でも全身に鳥肌が立ち足元がすくんでしまう。
自分の最初の試練は・・・
相手は自分の後ろで自爆した名も知らない走り屋だった。
そのとき、自分の頭の中で何かが砕け散った。
その一瞬の後には鈍い衝突音が聞こえ、ミラーには微かに火花が見えた気がした。
ハザードを点けてUタ-ンして戻ってゆくと部品を撒き散らしたバイクがガ-ドレ-ルに刺さっていて、その手前にライダーが仰向けに倒れていた。
バイクを停めて、走って近寄ると腕と足が変な方を向いていたから、ギョッとして手前で止まってしまった。
すると、微かに身体が動いていたのが見えたから近寄ってヘルメットを覗き込んだ。
かなり苦しそうにしていたから顎ヒモを弛めた。
すると、口から大量の血を吐いてヘルメットの中が血で埋まってしまった。
不味いと思ってヘルメットを横にしたら大量の血が路面に流れていったが、さらに血を吐き続けていた。
次第に血か泡かわからなくなってきたら、必死に何かを言おうとしているのが分かった。
自分は聞きとろうとヘルメット越しに耳を傾けた。
かすかに『お母さん』というのが聞こえた。
そして、動かなくなってしまった・・・
自分は流れてゆく血が蟻の行列を飲み込んでいるのを呆然と見つめていたのを覚えている。
蟻の行列は蝶の羽を運んでいて、血の中で動く羽がまるでヨットの様に見えたのを覚えている。
青いシジミ蝶の羽だった。
それが、最初の試練だった。
そのときには1週間食べ物が喉を通らなかった。
仲間からは『慣れれば嫌でも平気になる』と言われた。
2回目には、1週間が3日間になり、その内に帰り道にファミレスでご飯が食べれる様になってしまった。
そのずっと後になってから、とっくに忘れていたはずの記憶が、PTSDが発症してからは、呪いの様にフラッシュバックとして現れる様になった。
止めても無駄なのは自分が一番わかっているから・・・