メンバー全員の収録が終わり、製品としてリリースされる新曲の一つを、聴いた。
その曲の所々で自分とあなたの声が交わる、その空気に、何だか心がきゅうっとなった。
自分で言うのもなんだけど、
この音は、あなたとじゃないと表現できない最高のものだ。
久々の感覚に、無性に込み上げるものがあって、何となく空を見上げた。
あなたも、この曲を聴いたら同じ事を思ってくれるだろうか。
ずっと長年一緒に居ても、今でもあなたに憧れている。
ずっと焦がれていたあなたの手を掴むことが出来たけど、その存在の大きさには自分の手だけではとても足りなくて。
そんなこと言ったら、
「んふふ、翔ちゃんはバカだなぁ」
って、俺の好きなふにゃっとした笑顔でこう答えるんだろうな。
ふっと、自分の口元がゆるむのを感じた。
少し肌寒くなってきた季節に、ぽっと自分の中に明かりが点る。
……会いたい。
智くんのスケジュールを思い出す。
大丈夫、今はきっと家だろう。
何をしているかな。
ご飯はちゃんと食べたかな。
そんなことを考えながら、スマホの画面を操作する。
あなたの名前を見つけたところで、緑の受話器ボタンをタップし、コール音が鳴るそれを耳に当てた。
『……はぁい、どうした翔ちゃん』
あなたが電話に出た時、スマホを持つ手と反対の手の中には、車のキーが握られている。
我ながら、我慢がきかないな、と思わず笑った。
『翔ちゃん?』
それを不思議に思った智の声が怪訝そうだ。
「ねぇ、今から会いに行ってもいい?」
『……どうしたんだよ、今日は急だね?』
「うん。急に会いたくなっちゃった」
『付き合いたてのカップルかよ』
「俺はいつだってあなたと一緒に居たいと思ってるよ」
『…………』
電話越しに、あなたの熱を感じる。
この無言の先には、耳を赤くしたあなたがいるんだろう。
『ばーか。……早く来ないと寝ちゃうかんな』
「許可がおりたのですっとんで参ります。」
『……安全運転で来いよ』
「仰せのままに。……待っててね」
『飯は?』
「軽く食べられるものがあったらほしいって感じだけど……」
『わかった、何か用意しとく。』
「ありがとう。じゃあ、すぐ行くからね。」
流行る気持ちを抑えつつ、安全運転であなたのもとへ。
この曲を、あなたと一緒に聴きたいんだ。
そして二人顔を見合わせて、
幸せな時間を過ごそう。
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