池袋チャイナタウン ~都内最大の新華僑街の実像に迫る 山下 清海 | So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

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書評と読書感想文の中間の読書日記。最近は中国で仕事をしているので、中国関連本とビジネス関連本が主体。

★★★★☆(星4)


<My Opinion>


本書を読んで初めて知ったが、池袋に都内最大の新華僑居住地域がある。それが「池袋チャイナタウン」である。このチャイナタウンは西武百貨店やサンシャインがある東口、東武百貨店や立教大学がある西口とは別の駅北口一帯に広がっている。地理学者である著者が2003年にこの地域を池袋チャイナタウンと名づけた。日本でチャイナタウンと言えば、横浜、神戸、長崎が有名で三大中華街と呼ばれるが、実は池袋チャイナタウンこそが日本で最もチャイナタウンらしいチャイナタウンである。その実態を伝えているのが本書である。


この池袋チャイナタウンは、老華僑が形成した三大中華街と違い、飲食店、雑貨屋をはじめ多くの商店が雑居ビルの中に入っている為、見た目では中華街らしくない。つまり観光地化されていないのだ。そして池袋チャイナタウンで生活している人、訪れる人の多くが新華僑であるという点も他のチャイナタウンと大きく異なる。そこでは日本人に迎合しない味付けの本場中華料理が味わえたり、日本では手に入りづらい中国の食材が買えたりするらしい。さらに中国語のフリーペーパーが何十種類と流通しており、中国の各方言が街中を飛び交っていて、街全体から「中国」が極めて濃く醸し出されているとのこと。私は4年弱池袋界隈に住んでいたことがあった。当時は中国に対する興味が一切なかった為、このチャイナタウンの存在は当然気づかなかったが今度帰国した折には是非足を運んでみようと思う。


しかし、この池袋チャイナタウンは地域住民(日本人)からはあまり歓迎されていないようだ。理由はゴミ出しのマナーが悪かったり、地元商店街の加盟費用を払わなかったりといったことが発端になっている。その不満が根底にあった中、2008年の東京中華街構想(池袋駅を中心に半径500メートルのエリアで、そこに点在する飲食店をはじめとする新華僑経営の多様な店をつなぐネットワークをつくり、新たな「中華街」を構築しようとする構想)における新華僑と地元住民との対立は大きく国民の関心をあおった出来事だった。


現在構想は頓挫している。しかしながら、もし本気で池袋に東京中華街構築を目指すなら、日本人と中国人の根底にある文化的差異を認識しつつ、まずは双方がコミュニケーション量を増やすことが肝要だ。中国側は地元住民の意見を十分に聞き入れることや日本社会の基本的価値観に配慮する必要があると思うし、日本側もここまで日本に根を張って生活している中国人に対して敬意を持ちつつ構想の実現可否を検討すべきである。東京中華街構想が提起される以前から地元住民と新華僑の間にはほとんどコミュニケーションがないようであるが、これでは負の印象しか生まれない。


本件に留まらず、日本における中国人とのより良い共存共生の為には偏見を捨て能動的に中国人コミュニティーに働きかけていくことが求められている。中国人の思想や物事の進め方は現代日本人のそれとは180度異なるので、完全に分かり合える等というのはもちろん幻想だが妥協点は必ずある。日本人は一般的に交渉が苦手だが、中国人に対しては譲れるところと譲れないところを明確にした上できっちりと交渉していけば道は開かれるだろう。


本書はニッチなテーマを分かりやすく解説しており、とても面白い。星4つ。


池袋チャイナタウン ~都内最大の新華僑街の実像に迫る/山下 清海

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